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真魚 八重子「映画でくつろぐ夜」

真魚八重子「映画でくつろぐ夜。」 第15夜

Netflixにアマプラ、WOWOWに金ロー、YouTube。
映画を見ながら過ごす夜に憧れるけど、選択肢が多すぎて選んでいるだけで疲れちゃう。
そんなあなたにお届けする予告編だけでグッと来る映画。ぐっと来たら週末に本編を楽しむもよし、見ないままシェアするもよし。
そんな襟を正さなくても満足できる映画ライフを「キネマ旬報」や「映画秘宝」のライター真魚八重子が提案します。

■■本日の作品■■
『悪魔の手毬唄』(77年)
『獄門島』(77年)

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

金田一の映画

 今年のクリスマス、色々楽しみにしていることが皆さんもあるだろう。コロナがこのまま小康状態を保って、ささやかにでも忘年会ができるかもしれないし、引き続きおうち時間で、クリスマスケーキを奮発するのも良さそうだ。テレビも面白い特番がたくさんありそうだし。それにクリスマスプレゼントを選ぶのも楽しい。わたしから今年のオススメのプレゼントは、これです!12月24日発売。

 『犬神家の一族 4Kデジタル修復 Ultra HD Blu-ray』【HDR版】(4K Ultra HD Blu-ray+Blu-ray+特典Blu-ray 計3枚組)

 タイトルからしてゴツい!お値段も定価が16,280円となかなかなのだが、これが今予約販売で売れているのだ。

 『犬神家の一族』は1976年に制作された、石坂浩二が名探偵金田一耕助を演じた映画だ。監督は名匠市川崑。もう40年以上前の旧作だが、いまだに人気の高いコンテンツである。スケキヨという登場人物がつけている、目と耳がくりぬかれた白いラバーマスクは若い方も見たことがあるんじゃないだろうか。あと、『犬神家の一族』といえば、湖から足を突き出している死体のインパクトがとても強いのだが、まだ数年前にこの足を型にした製氷皿が発売された。結構ネットやテレビでも紹介されていた、シュールなグッズだ。タイトルがおどろおどろしい映画のわりに、意外に愉しく、フェティッシュに長く愛されている作品なのである。

 今回は「4Kデジタル修復版」と、最近の大画面テレビを意識した作りになっている。『犬神家の一族』はソフトフォーカスで撮られた景色の美しさと、惨劇のショッキングな血の色が目に鮮やかな、非常に映像美に凝った作品だ。そのため、ファンにとっては画質が良いほど嬉しいもの。おそらく今回購入するファンは、すでにDVD、BDも単品で買っているのに、また手を出してしまっている人が多いと思う。

 映画というと、横長の画面を想像される方が多いと思うが、じつはこの『犬神家の一族』はちょっと変則的な「東宝1.5ワイド(1:1.5)」というサイズになっている。単純に横が縦の1.5倍なので、スクリーンで観ると、正方形が少し伸びた程度のわりと横の狭い画格だ。これが結構、ファンにとってはトリミングされずに余すことなく画面が観たいので、収録サイズは気になるのである。特に本作のように熱烈な愛好家がいる作品に関しては、これは重要な点だ。今回はちゃんと(1:1.5)でアナウンスされているので、大丈夫かなと思っているのだが。

 もちろん、初心者にも面白いミステリ娯楽映画であるし、絢爛豪華な雰囲気は年末年始にもふさわしい。基本的にはユーモラスな編集がしてあって、笑って観られる作りである。女優さんも高峰三枝子の貫禄、草笛光子の達者さ、島田楊子のゾクッとするような美しさなど、見どころが多い。昔は結構テレビの地上波でも放送されていた、ある程度の年齢以上の人にとってなじみ深い映画だ。

 この冬のお休みには、ぜひこういった和のミステリも楽しんでいただきたい。

『悪魔の手毬唄』(77年)

『悪魔の手毬唄』

監督:市川崑
脚本:久里子亭
原作:横溝正史
出演者:石坂浩二/司葉子/大原麗子/草笛光子/東野英治郎

 市川崑監督が手掛けた石坂浩二の金田一シリーズは、セルフリメイクの『犬神家の一族』(2006年) まで合わせて6本ある。その中のどれが一番お気に入りかで結構意見は分かれるが、わたしはこの『悪魔の手毬唄』を挙げる。金田一シリーズは夏と冬が舞台の作品に分かれていて、これは冬枯れの木立や湖が美しい里が舞台。そこで少女たちを狙った連続殺人が起こり、その死体が手毬唄の歌詞になぞらえた装飾を施された、異常な状態で見つかる。怖くもあるのだが、秘めた恋心や親子の愛も胸に迫る切ない一作。ラストの哀切はシリーズ屈指だと思う。『犬神家の一族』と同じ俳優が、違った役柄で登場するのも楽しい。

『獄門島』(77年)

『獄門島』

監督:市川崑
脚本:久里子亭
原作:横溝正史
出演者:石坂浩二/岸惠子/若山富三郎(城健三朗)/仁科亜季子

 続く3作目は夏の真っ青な海に囲まれた島が舞台。金田一は戦争からの引き上げ中に亡くなった友人の、「妹たちが殺されてしまう」という臨終の叫びをうけて、獄門島へ赴く。しかし娘たちは殺人鬼の手にかかり、次々と奇怪な死を遂げる。この俳句に見立て、遺体にメッセージを込めた残酷美は、ある種の絢爛さがある。

 金田一シリーズに限らず、連続殺人ミステリは殺人の工夫や遺体のゾクゾクするあり方を見せるため、探偵は気が付くと後手に回ってしまうことになる。もちろん殺人が重ならなければ、手口が見えてこないというのもあるのだが、結構いろんな名探偵たちの目の前に、連続殺人の死体は山積しているなと思う。女の身で健気に家を守る早苗を演じた、大原麗子の清純な美しさが記憶に残る。

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

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ライター紹介

真魚 八重子
映画ライター
映画評論家。朝日新聞やぴあ、『週刊文春CINEMA!』などで映画に関する原稿を中心に執筆。
著書に『映画系女子がゆく!』(青弓社)、『血とエロスはいとこ同士 エモーショナル・ムーヴィ宣言』(Pヴァイン)等がある。2022年11月2日には初エッセイ『心の壊し方日記』(左右社)が発売。
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