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「おつかれ。今日の私。」ジェーン・スー

「おつかれ、今日の私。」vol.20

東京生まれの日本人。
現在、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」のMCを務める人気コラムニストで作詞家、プロデューサーのジェーン・スーが、毎日を過ごす女性たちに向けて書き下ろすエッセイです。

おつかれ、今日の私。 vol.20

「おつかれさま」と誰かに声を掛ける時、私はこの6音にいろんな気持ちを込める。仕事でへとへとになって会食に遅れてきた友人に掛ける「おつかれさま!」には、「よく働いてえらい!」とか「さあ、ここからはゆっくり楽しんで!」なんて気持ちがブレンドされる。育児や病気療養、親の介護に時間を割く人への「おつかれさま」には、「あなたは本当によく頑張ってると思うよ」を忍ばせる。顔見知りの警備員や配送スタッフへの「おつかれさまです」には、「いつもありがとうございます」が含まれているし、仕事仲間が無事に納品したときの「おつかれさま」には、「今回もいいものを作ったね!」と、敬意を込める。

「おつかれさま」は本当に便利な言葉。外国語にはそれに相当する言葉がないと言われるが、ザッと調べたところ、確かに韓国語以外にはそれに近しい言葉が見つからなかった。ほかの国では場面によって使う言葉が異なり、労いの類だと「いい仕事をしましたね」と結果を讃えるものがよく目に付いた。なかなか興味深い。

たぶん、ちゃんとした言語学者や比較文化論者がリサーチに基づいたまっとうな見解を発表しているイシューだけれど、私にも「おつかれさま」利用者として思うところがある。私が「おつかれさまでした」を使う時、いちばんに讃えたいのは相手の行動や結果ではなく、存在や状態そのものだ。Good Job! ではカバーしきれない範囲のこと。思わしくない結果を受け取った人にも「おつかれさま」と声を掛けたくなるのは、「あなたがよくやったことを、私は知っている」と伝えたいからだ。

言われる側としても、気持ちは同じ。私が誰かの「おつかれさま」に労われるのは、行為そのものに注力したことを、他者に受け止めてもらえたように感じるから。誰かが知っていてくれることに、安心するから。だから、うまくいかなかった時の「おつかれさま」ほど沁みる。結果なんて、自分の努力次第ではどうにもならないことばかり。だからといって、頑張りたくないとは思わない。誰にだって、やらなきゃいけない時ってあるもの。しかも、何度も!

思うようにいかないと、自分はダメ人間なのではないかと暗い気持ちになる。そこを覆すには「ダメでもいいじゃないか」と現時点のBeing(あり方)を力づくで肯定するのが功を奏すのだけれど、しばらくすると「やっぱり、ダメじゃない自分に出会いたい」という欲望が頭をもたげてくる。自分を諦めるのって、とっても難しい。もう一度頑張るのも、同じくらい難しい。

もう一度やる気になるか否かは、いまいちだった前回、誰かに「おつかれさま」と心から言ってもらえたかどうかによる部分が大きい。ほかの人はどうかわからないけれど、私はそう。だから、これからもちょっぴりうなだれ気味の人にはじゃんじゃん言っていこうと思う。「本当におつかれさま」って。あなたが一生懸命にやったことを、私は知っているよと伝えたいから。


Writer Writer
ライター紹介
ジェーン・スー
コラムニスト/ラジオパーソナリティ/作詞家
東京生まれ、東京育ちの日本人。
現在、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」(月〜木11:00〜)のパーソナリティを担当。
毎日新聞、婦人公論、AERAなどで数多くの連載を持つ。
2013年に発売された初の書籍『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』(ポプラ社)は発売されると同時にたちまちベストセラーとなり、La La TVにてドラマ化された。
2014年に発売された2作目の著書『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』は、第31回講談社エッセイ賞を受賞。

その他の著書に『女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。』(文藝春秋)、『今夜もカネで解決だ』(朝日新聞出版)、『生きるとか死ぬとか父親とか』(新潮社)、『私がオバさんになったよ』(幻冬舎)、脳科学者・中野信子氏との共著『女に生まれてモヤってる!』(小学館)がある

11月6日発売
最新著書『女のお悩み動物園』(小学館)
【特設サイト】https://oggi.jp/6333649
【twitter】:@janesu112


イラスト:Ayumi Nishimura
大学在学中よりイラストレーターとしての活動を開始。
2016年〜2018年にはニューヨークに在住。
帰国後も現地での経験を作風に取り入れ、活動を続けている。
【Instagram】:_a_y_u_m_1_/
【official】ayuminishimura.com/

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