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「おつかれ。今日の私。」ジェーン・スー

「おつかれ、今日の私。」vol.3

東京生まれの日本人。
現在、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」のMCを務める人気コラムニストで作詞家、プロデューサーのジェーン・スーが、毎日を過ごす女性たちに向けて書き下ろすエッセイです。

おつかれ、今日の私。 vol.3

あー悔しい。今月もまた、自分との約束を果たせなかった。「月に1冊は、必ず仕事関係以外の本を読む」ってやつ。
先月は達成した。先々月は…ダメでした。恐る恐る振り返ると、打率は2割5分ってところ。あーあ。

読みたい本はわんさかある。それを月に一冊すら読めないなんて、どうかしてる。自分がつくづく嫌になる。寝る前のスマホゲームは欠かさないのに、本は読めない。「なら、たいして読みたくないんじゃない?」と誰かに嗤われたとしても、結果がともなってないんだから強く否定できない。もしかすると、そもそもが私にとっては無茶な設定なのかも。私は、私が期待しているよりずっとダメなのでは?

いや、そんなことはない。だって仕事が忙しかったんだもの。私だって、長い休みがあったら読書に耽るはず…と平静を取り戻したところで思い出す。二年前の夏休み、バカンスで南の島に行った私は、持参した本を一冊も読み終えられなかったことを。

たいていの場合において、私は私の期待を裏切る。良い人間になるため設定した行動は、特にそうだ。今週は夜9時以降なにも口にしないとか、今月はいつもより多めにジムへ行くとか、美容院には月に一度行くとか、そういった類はことごとく。子どものころからそうだった。

自己管理能力、という恐ろしいワードがある。「自己管理」と「能力」がくっついているのが怖い。つまり、自分を管理するのはその時々の意志の強弱ではなく、能力のあるなしってことでしょう?そうしたら私は無能ってことになってしまう。無能は言い過ぎでも、微能、ぐらい。そんな言葉は存在しないけれど。

若いころは、こういうダメの積み重ねが歪なコンプレックスに姿を変えていた。卑屈になるだけでは飽き足らず、自己管理能力がある人の揚げ足取りまでしていた。過剰なエネルギーの使い道を間違っていたのだ。

いまとなっては、開き直ることに躊躇がない。ダメだな、でもまぁいいか、の繰り返し。進歩がないと言われればそれまでだが、それすら「まぁいいか」と思う次第。

でも、悔しさが消滅したわけではないのだ。できなかったことに、悔しい気持ちはどうしたって湧き上がる。揮発性の高い悔しさを、私は大事にしたい。

自己肯定も大切。だけど、それが自分への生ぬるい見限りにつながるのはどうかと思う。マッチを擦ったときみたいに、一瞬だけ燃え上がる悔しさ。ともしびの明かりも熱も一瞬にして消え失せるが、かすかに残る焦げ臭さは、そこに悔しいという火種があったことの証だ。

擦っても擦っても火がつかなくなったら、私というマッチの頭には、もうなにもくっついていないってこと。それじゃあ、ただの棒。棒人間には、なりたくないなぁ。ダメな自分に疲弊しても、同じ失敗を繰り返しても、懲りずに悔しがっていきたい。

「誰かに嗤われたとしても」なんて書いたけど、本当は私を嗤ってるのは私自身なのだ。こいつはなかなか手ごわくて、私から自信をすべて奪ったり、執着という厄介な地熱を生んだりもするけれど、いなくなられては困る存在。

なぜかって? そりゃ、期待通りうまくいった時に、こやつの鼻を明かしたいからに決まってる。「どうだ、見たか!」と鏡に向かってほくそ笑み、うまくやれた自分に、おつかれ!と声を掛けたいのだ。

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ライター紹介
ジェーン・スー
コラムニスト/ラジオパーソナリティ/作詞家
東京生まれ、東京育ちの日本人。
現在、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」(月〜金11:00〜)のパーソナリティを担当。
毎日新聞、婦人公論、AERAなどで数多くの連載を持つ。
2013年に発売された初の書籍『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』(ポプラ社)は発売されると同時にたちまちベストセラーとなり、La La TVにてドラマ化された。
2014年に発売された2作目の著書『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』は、第31回講談社エッセイ賞を受賞。

その他の著書に『女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。』(文藝春秋)、『今夜もカネで解決だ』(朝日新聞出版)、『生きるとか死ぬとか父親とか』(新潮社)、『私がオバさんになったよ』(幻冬舎)、脳科学者・中野信子氏との共著『女に生まれてモヤってる!』(小学館)がある

最新著書『これでもいいのだ』(中央公論新社)が発売中。
【特設サイト】https://www.chuko.co.jp/special/janesu/
【twitter】:@janesu112


イラスト:Ayumi Nishimura
大学在学中よりイラストレーターとしての活動を開始。
2016年〜2018年にはニューヨークに在住。
帰国後も現地での経験を作風に取り入れ、活動を続けている。
【Instagram】:_a_y_u_m_1_/

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