「おつかれ、今日の私。」vol.17
東京生まれの日本人。
現在、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」のMCを務める人気コラムニストで作詞家、プロデューサーのジェーン・スーが、毎日を過ごす女性たちに向けて書き下ろすエッセイです。
おつかれ、今日の私。 vol.17
占いは信じるほう? 私はボチボチ。馴染みの占い師がいるわけではないけれど、雑誌やテレビで自分の星座の占いが目に入れば、とりあえず見てみるくらい、と言えば伝わるだろうか。
私はもの覚えが悪いので、ラッキーカラーや、今週の恋愛運がいいのか悪いのか、1日も経てば忘れてしまう。ようは、そこまで気にしていないのだ。ではなぜ占いに目が留まるのかと言えば、自分の未来が知りたいから。真実かどうかは確かめようがないとわかっていても、明るい未来への欲望が、私を占いに惹きつける。
2020年は散々な年だった。多くの人にとってそうだったろう。あれは5月か6月のことだったろうか、女友達と、「こんなことになるなんて、誰も想像していなかっただろうね」と話していた。では占い師は2020年をどんな風に占っていたのかと、どちらからともなく言い出し、2人でネットの星占いを検索してひっくり返ったのだ。どの占いにも、「2020年はいままでの価値観が崩壊するような出来事が起こる」と書いてあったから。
グレートコンジャンクション。なにやら木星と土星が20年ぶりに出合い、そのほかにもいろいろあって、200年ぶりに「土の時代」から「風の時代」に変わるのだとか。これからはみずがめ座の時代になるそうで、物質主義から精神主義になるらしい。変化が具現化するには時間がかかるので、2023年あたりに社会が変わったと体感できるだろうと書いてあったのもあった。
女友達と私は大笑いした。なぜって、この手の星占いを、私たちは絶対に2019年の年末にひとつは読んでいたはずだから。なのに、どちらもまったく覚えていなかった。未来が進む方角を指し示す羅針盤が目の前に存在したにもかかわらず、「なるほどねえ」なんて言いながら、次のネットニュースかなにかに意識を奪われていたのだろう。
占いが「当たった」と言うのは少し抵抗があるが、2020年を振り返ってみれば、コロナだけでなく、11月のアメリカ大統領選は社会に大きな変化をもたらす結果になったし、女友達と私にはそれぞれプライベートで大きな変化が訪れた。完全に使い方を間違っていると思うけれど、なにかあるたびに、私たちは2人で「これがグレートコンジャンクションだ!」と盛り上がった。そうやって、キツいことを笑い飛ばし乗り越えた。
2020年の年末、この女友達と私は「儀式」として、2021年を占った記事を読み漁った。風の時代では拝金主義が終わり、情報共有が要になるらしい。ちょっとよくわからないけれど、私の星座を見ると、よりチャレンジングな仕事に挑むことになりそうだと書いてあった。女友達の星座にも、新しいことに挑戦することになるとあった。「これ以上働くの?!」と、私。「いまやってることにも十分手が回っていないのに!?」と、女友達。よく見れば、どの星座にもそういった類のことが書かれている。のんびり風に吹かれてたゆたうわけにはいかないらしい。イメージしていたのと全然違う!ふぅ。
どなたさまも、本当におつかれさま。去年の疲れも癒えないうちに始まってしまった2021年、誰もが変化の渦に巻き込まれることになるのかしら。私たちは、未来への前向きな欲望を持ち続けることができるのかしら。5月か6月ごろになったら、またすべて忘れていそうだけれど。そうやって忘れることができるから、今日まで生き延びてきたとも言えるのだけれど。どうか、誰にとっても去年よりはいい年になりますように。