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「おつかれ、今日の私。」vol.16

東京生まれの日本人。
現在、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」のMCを務める人気コラムニストで作詞家、プロデューサーのジェーン・スーが、毎日を過ごす女性たちに向けて書き下ろすエッセイです。

おつかれ、今日の私。 vol.16

あ~つかれた。玄関の扉を後ろ手で締めながら、思わず声が漏れる。その場にへたり込んでしまいたいくらいヘロヘロだけれど、そうもいかないので靴を脱ぎ、ノロノロとリビングへ移動する。コートを脱いで部屋着に着替え、帰り道にコンビニで買ってきた、食べたいんだか食べたくないんだかわからない甘いものをテーブルに並べる。冷蔵庫を開け、プシュッとビールの缶を開ける人もいるだろう。着替える余力もなく、ソファに倒れ込む人も。金曜の夜は、誰も彼もがつかれている。本当に、本当に、今週もおつかれさまでした。土日出勤の方、あと少し! なんとか凌いで!

さて、私たちは、なぜこんなにもつかれてしまうのだろう。通勤の満員電車もキツいけれど、体力的な問題だけではないはずだ。むしろ、精神的疲労のほうがやっかい。

男ばかりの職場で働く女友達は、このご時世で接待飲食が激減したら、テキメンにつかれにくくなったと言う。そうなのよね、接待ってするのもされるのも本当につかれる。なんであんなことするんだろう。腹の内を見せるつもりの人なんて、誰もいないのに。主義主張が異なる相手に、反論できない空間でニコニコ頷くのは心底しんどい。おもしろくもないことに手を叩いて笑ったり、聞きたくもない話を延々聞いたりね。

もうひとりの女友達は、会社の急な方針転換で大量の部下をリストラしなくてはならなくなった。ひとりひとりとリモート面談をするたびに、ズシッと心が重くなる。そりゃそうだ。彼女はこの改革に大反対なんだもの。だけど、そんなことは部下に言えない。いちばん頼りにしていた年上の部下も会社の判断で契約終了となり、彼女はかなり参っていた。彼に解雇を伝えるときがいちばん堪えたらしい。けれど、契約終了を通達しても、彼は彼女が罪悪感を持たぬよう、ずっと明るく振舞ってくれたとか。聞いているこっちの胸が痛くなってくる話だ。

またある女友達は、リモートワークになった夫と、休校になった子どもたちの相手でクタクタになってしまった。学校は無事再開したけれど、夫のリモートワークは続いている。彼女だって働いているのに、なぜか家のことは彼女が取り仕切ることを期待されている。もう働くどころか、遊びに出掛けすらしたくないと彼女は言った。家族のリクエストに応えることに、とことんつかれたと半べそをかいていた。おなじように、親の介護でバテてしまった人もいる。

疲労はキャパオーバーの証だ。もう休んでくれと、体が悲鳴を上げている。やりたくないことを続けて、心が過呼吸になっているのだ。やって欲しいことをやってくれない人が視界に入るから、気持ちが削られてしまうのだ。私たちのがんばりパワーは有限で、できることには限りがある。もちろんキャパを広げていくことは可能だが、急には無理。

体と心がつまづいたら、ゆっくり休むしかない。残念ながら、私が知る限りそれ以外に手はない。同じ個所を毎日筋トレしても筋肉は育たないそうで、適度な休息も必要なのだとか。つまり、インターバルがないと、ただただつかれがたまるだけ。あなたの毎日、そうなっていないだろうか。

自戒の念を込めて書くが、上手に休めることも能力のひとつなのだと思う。むしろ、それこそが求められる新しいパワーかも。「それができたら最初からやってわるよ」と、肩を落とさないで。がんばるなら、休むことをがんばったほうがいいという話。「じゃあ誰がやるの?」と怒らないで。誰かがやるから。あなたがやらないと回らないような状況から、できるだけ早く脱する方法を考えなきゃ。

がんばり屋さんほど、多くをひとりで抱えすぎる。65点で着地することを、決して自分に許さない。特に働くお母さんたちは、どれもこれも中途半端にしかできないと自分を責めるばかり。そんな風に思わないで、私たちはスーパーウーマンじゃないのだから。「つ、つかれた~」と声が漏れたあとも達成感が残るうちは大丈夫だけれど、虚しさが募るなら、それは休憩の合図。

人に多大な迷惑をかけるほど、日常的にサボったりズルしたりは私もお勧めしない。それは、やめておいたほうがいい。築いてきた信頼を失ってしまうし、いつまで経っても自分に自信が持てなくなるから。けれど、あなたが必死でジャグリングしていることがらのなかに、ほかの人が「やればできる」ことがひとつでもあるのなら、思い切って「やらない日」を作ってもいいのではないかしら。

たとえば二日連続で有給休暇を取ったり、一週間連続で夕飯を店屋物にしたり、洗濯も皿洗いもやらず土日はずっと寝てしまったり。ちょっとやりすぎなくらいが、ちょうどいいと思う。がんばり屋さんのスイッチは非常に固いから、思い切って力ずくでオフにするしかない。後ろめたくなる必要もない。非難されても耳を貸さないで。だって、あなたはいま休むことを頑張っているのだから。

自分を責めたくなるときは、休みが必要なとき。十分にチャージしたら、またランニングシューズを履いてトラックに戻ればいい。そのときは、休む前よりずっと楽しくがんばれるはずだから。

本当に、本当に、毎日おつかれさま。


Writer Writer
ライター紹介
ジェーン・スー
コラムニスト/ラジオパーソナリティ/作詞家
東京生まれ、東京育ちの日本人。
現在、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」(月〜木11:00〜)のパーソナリティを担当。
毎日新聞、婦人公論、AERAなどで数多くの連載を持つ。
2013年に発売された初の書籍『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』(ポプラ社)は発売されると同時にたちまちベストセラーとなり、La La TVにてドラマ化された。
2014年に発売された2作目の著書『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』は、第31回講談社エッセイ賞を受賞。

その他の著書に『女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。』(文藝春秋)、『今夜もカネで解決だ』(朝日新聞出版)、『生きるとか死ぬとか父親とか』(新潮社)、『私がオバさんになったよ』(幻冬舎)、脳科学者・中野信子氏との共著『女に生まれてモヤってる!』(小学館)がある

11月6日発売
最新著書『女のお悩み動物園』(小学館)
【特設サイト】https://oggi.jp/6333649
【twitter】:@janesu112
Ayumi Nishimura
イラスト
大学在学中よりイラストレーターとしての活動を開始。
2016年〜2018年にはニューヨークに在住。
帰国後も現地での経験を作風に取り入れ、活動を続けている。
【official】ayuminishimura.com/
【Instagram】:_a_y_u_m_1_/
【Twitter】_A_Y_U_M_1_
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