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「おつかれ、今日の私。」Season3

東京生まれの日本人。
現在、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」のMCを務める人気コラムニストで作詞家、プロデューサーのジェーン・スーが、毎日を過ごす女性たちに向けて書き下ろすエッセイです。

おつかれ、今日の私。 vol.05

大人になってから「この人と仲良くなりたいな」と思う相手のことって、まるで恋をしているみたいに好きになってしまう。恋みたいだけれど厳密には恋ではないから、相手の一挙手一投足に浮かれたり落ち込んだりはしない。好きな気持ちを気持ち悪くならない程度にはまっすぐ伝えたいと思うし、迷惑にならない限りの協力や応援をしたいと思う。そっと見守っていたいときもある。好かれたい欲望が過分にあるわけでもないから、嫌われたくないという恐怖もそれほどない。非常にヘルシーだ。

先日、そんな相手と食事をともにした。もっとじっくり話をしたいと常々思っていたのだけれど、とにかく忙しい方なのでお誘いするのが憚られていたら、向こうから誘ってくれたのだ。なんという奇跡。恋ではないが、これもひとつの成就と言える。飛び上がりたくなるほどうれしかった。

美味しい食事と共にお互いの仕事やプライベートのことをざっくばらんに話したあと、彼女は私に尋ねた。「もし、いまの経験値や能力を保ったまま17歳に戻れると言われたら、どうします?」と。単に「いま17歳に戻れたら嬉しい?」というような質問は、過去に何度も受けたことがある。私はいつも「いまの知恵や経験や記憶を失うくらいなら、戻りたくない」と答えていた。今回は、それらをまったく失わずに若さだけ取り戻せるという都合の良い話だ。

ウーンと唸ってしばらく考えて、私は「やっぱり、戻りたくないかも」と答えた。彼女はにっこり微笑んで「私もそう」と答えた。

「だって、いまのまま17歳に戻ったら、知恵があるから失敗ができないじゃない?」と、彼女は続けた。私は大きくうなずく。そうそう、そういうこと。彼女にも私にも、顔を覆いたくなるような数々の大失敗が自分を作ってきたという自負がある。そのせいで、いまでも癒えぬ傷もある。なんの因果か、同じ失敗を何度も繰り返したりもしている。それでも、やっぱり自分を作ってきたのは成功ではなくて失敗なのだと強く思う。失敗もできない人生を17歳からやるなんて、退屈以外のなにものでもない。私は彼女のことがますます好きになった。

失敗は糧になるからといって、知恵も経験もすべて失い、まっさらになって17歳からもう一度やり直したいかと問われれば、やはり答えは変わらずNOだ。失敗は私にたくさんの果実を授けてくれたけど、それらが実るまでが、どれほどしんどいかもよくわかっている。それを知っていながら、禍々しい大きな渦のなかにもう一度自分を放り込むわけにはいかない。一からやり直したところで、次は手痛い失敗を回避できるとも思えない。だって、私は私だもの。ぜったいに、同じことをやるに違いない。

次はうまくやれるという自信よりも、次も同じ失敗をする自信のほうが100倍ある。私はそんな自分が大好きだ。


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ライター紹介

ジェーン・スー
コラムニスト/ラジオパーソナリティ/作詞家
東京生まれ、東京育ちの日本人。
現在、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」(月〜木11:00〜)のパーソナリティを担当。
毎日新聞、婦人公論、AERAなどで数多くの連載を持つ。
2013年に発売された初の書籍『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』(ポプラ社)は発売されると同時にたちまちベストセラーとなり、La La TVにてドラマ化された。
2014年に発売された2作目の著書『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』は、第31回講談社エッセイ賞を受賞。

その他の著書に『女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。』(文藝春秋)、『今夜もカネで解決だ』(朝日新聞出版)、『生きるとか死ぬとか父親とか』(新潮社)、『私がオバさんになったよ』(幻冬舎)、脳科学者・中野信子氏との共著『女に生まれてモヤってる!』(小学館)がある

11月6日発売
最新著書『女のお悩み動物園』(小学館)
【特設サイト】https://oggi.jp/6333649
【twitter】:@janesu112
Ayumi Nishimura
イラスト
大学在学中よりイラストレーターとしての活動を開始。
2016年〜2018年にはニューヨークに在住。
帰国後も現地での経験を作風に取り入れ、活動を続けている。
【official】ayuminishimura.com/
【Instagram】:_a_y_u_m_1_/
【Twitter】_A_Y_U_M_1_
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