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「おつかれ、今日の私。」Season2

東京生まれの日本人。
現在、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」のMCを務める人気コラムニストで作詞家、プロデューサーのジェーン・スーが、毎日を過ごす女性たちに向けて書き下ろすエッセイです。

おつかれ、今日の私。 vol.2

関西ことばの「しんどい」が全国区で使われるようになってから、ずいぶんと時間が経った。私もよく使う言葉だ。思わず立ち止まってしまうような心の状態を、「つらい」や「きつい」より実感を込めて言い表せるし、なにより相手に与える印象が重すぎないのが良い。

私にとって「つらい」や「きつい」は、「助けてほしい」の意味をちょっと含んでいる。助けが必要なら迷わずそう言うけれど、そこまで切羽詰まっているわけでもなく、いや切羽詰まっていたとしても、いまは放っておいてもらえると助かるなあと思うとき、私には「しんどい」がしっくりくる。さしたる理由はないのに重力を過分に感じてしまうこと、どんより佇むしかないことって、誰にでもあるだろう。

口に放り込んだそばからとろけていくリンドールの甘いチョコレート、ビヨンセのライブ映像、夜眠れなくなることなんかお構いなしの昼寝。転んでは立ち上がりを繰り返すなかで、不足エネルギーをチャージする処方箋をいくつか手に入れることができた。けれど、しんどさど真ん中での急速エネチャージは、私をもっとしんどくさせることも知った。充電のまえには、ワンクッションが必要なのだ。言うなれば、しんどさの放電。それを省くと、心がパンクしてしまう。

深く傷付くのとは一味違う、しんどい状態。落ち込みと立ち直りのあいだにある停滞期。やり過ごすしかないと、頭ではわかっている。けれど、少しでも重力を軽くすることができたらいいのに。ナマケモノのスピードで試行錯誤をしてみたところ、私の暫定的な結論は「ニヤニヤできるものを常備しておく」に着地した。

しんどいときに懐かしい写真を眺めたり、好きな音楽を聴いたりは私の心を軽くしてくれなかった。ニヤニヤ以外のセンチメンタルな感情が湧いてしまうから。もっと単純にニヤニヤできるものが効く。たとえば推しのカッコイイだけの写真や、かわいいだけの動物動画。ポイントは「だけ」なところ。なにより即物的なほうがいい。メッセージなどなにもいらない。だって受信機がぶっ壊れているんだもの。

さまざまな感情を呼び起こす多層的なエンターテイメントは、心が健やかなとき、もしくは立ち直る準備ができたときにしか効かない。だから、そういうものに心が動かされないときはかえって注意が必要なのだ。自分でも気づかないうちに、心が疲れているのかもしれないのだから。

しんどくなったら、ニヤニヤしよう。無条件にニヤニヤできるものさえ準備できれば、あとはベッドに横たわり、それを眺めていればいい。気付けば声をあげて笑う自分がいて、しんどさも消えている。私は待ってましたと言わんばかりに、リンドールのチョコレートを口に含む。


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ライター紹介

ジェーン・スー
コラムニスト/ラジオパーソナリティ/作詞家
東京生まれ、東京育ちの日本人。
現在、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」(月〜木11:00〜)のパーソナリティを担当。
毎日新聞、婦人公論、AERAなどで数多くの連載を持つ。
2013年に発売された初の書籍『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』(ポプラ社)は発売されると同時にたちまちベストセラーとなり、La La TVにてドラマ化された。
2014年に発売された2作目の著書『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』は、第31回講談社エッセイ賞を受賞。

その他の著書に『女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。』(文藝春秋)、『今夜もカネで解決だ』(朝日新聞出版)、『生きるとか死ぬとか父親とか』(新潮社)、『私がオバさんになったよ』(幻冬舎)、脳科学者・中野信子氏との共著『女に生まれてモヤってる!』(小学館)がある

11月6日発売
最新著書『女のお悩み動物園』(小学館)
【特設サイト】https://oggi.jp/6333649
【twitter】:@janesu112
Ayumi Nishimura
イラスト
大学在学中よりイラストレーターとしての活動を開始。
2016年〜2018年にはニューヨークに在住。
帰国後も現地での経験を作風に取り入れ、活動を続けている。
【official】ayuminishimura.com/
【Instagram】:_a_y_u_m_1_/
【Twitter】_A_Y_U_M_1_
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