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真魚 八重子「映画でくつろぐ夜」

「映画でくつろぐ夜。」 第97夜

知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。

「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」

自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。

■■本日の作品■■
『バスターのバラード』(2018年)
『世にも怪奇な物語』(1967年)

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

オムニバス映画の魅力

試写で拝見した4月25日公開の『#真相をお話しします』(豊島圭介監督)がかなり面白くて、メッセージ性もあり拾い物だった。原作は結城真一郎のヒット小説で、全5作の中編で構成されている。映画はこれらをうまく包括して一本の物語にしており、ネットという媒体を介して、匿名の人間の残酷さや未熟さが浮き彫りになる作品だ。

宣伝会社から「オムニバスとはちょっと異なりますよ」という旨のお達しを受けていて、確かに非常に巧くそれぞれの物語が連動しているため、本作をオムニバスと呼んでいいのかはわからない。ただ、封切られて一般の観客の方たちが感想を書き始めたら、オムニバス形式という言葉も出てくるだろう。そして、自分がオムニバス映画についてじっくり考えたことってなかったなあと気がついた。

オムニバスというと、まずは複数の監督が参加して一本になった作品を連想する。監督のロベルト・ロッセリーニ、ジャン=リュック・ゴダール、ピエル・パオロ・パゾリーニ、ウーゴ・グレゴレッティの4人の頭文字をとった『ロゴパグ』や、フランソワ・トリュフォー、レンツォ・ロッセリーニ、石原慎太郎、マルセル・オフュルス、アンジェイ・ワイダという五か国の監督が一つのテーマで撮りあげた『二十歳の恋』。ハリウッドだとジョン・ランディス、スティーヴン・スピルバーグ、ジョー・ダンテ、ジョージ・ミラーといった大御所だらけのホラー『トワイライトゾーン/超次元の体験』。00年代以降ではレオス・カラックス、ポン・ジュノ、ミシェル・ゴンドリーが東京を舞台にした『TOKYO!』などがパッと浮かぶ。

今回、この原稿を書くにあたってオムニバス映画を整理してみたら、ひとりの監督の一本の映画が、複数話で構成されている作品は、自分の中でオムニバスとして浮かんでこなかったことに気づいた。奇妙な意識の問題で、いわれてみれば群像劇でもないし、確かにタイトルのついた関係のない短編がいくつも収められていたらオムニバスだ。改めて、こういった際に浮上しなかっただけで、これまでには無意識にオムニバスと書いてきたような気もするし、少しおざなりにしてきたなと反省した。

そして一人の監督と、複数の監督によるオムニバスだと、圧倒的に一人の監督のオムニバスの方が出来は良いと感じた。『ロゴパグ』や『二十歳の恋』は義務的な気分で鑑賞したが、一人くらい面白い作品があるくらいで、あまり出色とはいいがたい出来の作品ばかりだった。しかしジム・ジャームッシュの『コーヒー&シガレッツ』や『ナイト・オン・ザ・プラネット』は面白い話も結構あって、鮮明に覚えているシーンが多い。『コーヒー&シガレッツ』は本当になんでもない話の羅列なのだが、その分肩の力を抜いて観られる。ケイト・ブランシェットが二役を演じる「いとこ同士」という話では、いま観ると現在のケイトが全然老けていないことに驚かされるばかりだ。『ナイト・オン・ザ・プラネット』のタクシー運転手に扮したウィノナ・ライダーも全盛期で、ボーイッシュな可愛らしさが忘れがたい。

日本にもオムニバス映画は多くあって、複数の監督なら吉村公三郎、市川崑、増村保造の三監督による『女経』、実相寺昭雄、市川崑、清水崇、豊島圭介、松尾スズキらが監督として参加した、夏目漱石の幻想的な短編集『夢十夜』の映画化は、さすが清水崇監督が上手くまとめていた。ひとりの監督によるものでは濱口竜介監督の『偶然と想像』や、小林正樹監督の『怪談』、そして日本の歴史上の暗殺ばかりを集めた中島貞夫監督の『日本暗殺記録』といった異色作が面白い。

<オススメの作品>
『バスターのバラード』(2018年)

『バスターのバラード』

監督:ジョエル・コーエン/イーサン・コーエン
出演者:ジェームズ・フランコ/リーアム・ニーソン/デヴィッド・クラムホルツ/ブレンダン・グリーソン

近年、あまり手放しで良いといえる作品がなかったコーエン兄弟監督の、久々に水準を軽く超えてきた佳作。特に個人的に好きなのは、旅回りの興行師と四肢の欠損した見世物にされている青年の物語。興行師は他に良い見世物のネタを仕入れると、青年の世話をやめて非情な手段に出る。カフカ的な不条理を感じる作品だ。

『世にも怪奇な物語』(1967年)

『世にも怪奇な物語』

監督:ロジェ・ヴァディム/ルイ・マル/フェデリコ・フェリーニ
出演者:ジェーン・フォンダ/ピーター・フォンダ/フランソワーズ・プレヴォー/ジェームズ・ロバートソン・ジャスティス/アラン・ドロン/ブリジット・バルドー

エドガー・アラン・ポーの小説を三人の監督が映画化。ロジェ・ヴァディム「黒馬の哭く館」、ルイ・マル「影を殺した男」、フェデリコ・フェリーニ「悪魔の首飾り」の三編で、ダントツにフェリーニの「悪魔の首飾り」が素晴らしい。フェリーニの奇想天外さが凝縮された世界観で、疲れ果てたシェークスピア俳優を演じるテレンス・スタンプも非常にふさわしい雰囲気を湛えている。本作に登場する年齢不詳な少女が怖いという人も多し。

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

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ライター紹介

真魚 八重子
映画ライター
映画評論家。朝日新聞やぴあ、『週刊文春CINEMA!』などで映画に関する原稿を中心に執筆。
著書に『映画系女子がゆく!』(青弓社)、『血とエロスはいとこ同士 エモーショナル・ムーヴィ宣言』(Pヴァイン)等がある。2022年11月2日には初エッセイ『心の壊し方日記』(左右社)が発売。
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