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真魚 八重子「映画でくつろぐ夜」

「映画でくつろぐ夜。」 第79夜

知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。

「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」

自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。

■■本日の作品■■
『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』(1971年)
『ロリータ』(1962年)

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

メイ・ディセンバー その間にあったもの

最近は実話の映画化が増えている。やはり人間は実際の行動の方が突飛で、創作では嘘くさくなってしまい、現実に追いつかないのだ。7月12日公開の『メイ・ディセンバー  ゆれる真実』も実話に基づいている。これは日本でも報道されたので、記憶に残っている方もいるかと思うが、36歳の女性教師が13歳の生徒と肉体関係を持ち、妊娠した事件だ。これをフィクションで書いたら、「設定が極端すぎる」と脚本の時点で却下されてしまうだろう。

 

映画を観たところ、メアリー・ケイ・ルトーノーは、13歳の少年ヴィリ・フアラアウと関係を持った時点で人妻であり、すでに4児の母だったことを知って、ちょっと驚いてしまった。1997年2月、彼女とヴィリの関係が明るみになった時点で、メアリーは彼の子を妊娠していた。メアリーは児童レイプの罪で裁判中に出産し、判決では「二度と少年に会わない」という条件の下に減刑されるが、翌98年2月に、再び肉体関係を持った現場を見つかり逮捕される。そしてこの時点でまたもやヴィリの子を妊娠していた。再犯のため実刑判決を受け、2004年の仮釈放まで獄中生活となる。その間に夫と離婚し、出所後にヴィリと再婚した。

映画は捻った設定になっていて、メアリーのメイ・ディセンバー事件が映画化されることになる。この言葉は5月と12月が離れていることから、年の離れたカップルのことを指すそうだ。その映画化に当たってメアリー(ジュリアン・ムーア)の役を、女優のエリザベス(ナタリー・ポートマン)が演じることになった。そして役作りのため、エリザベスはメアリーに会い、しばらく彼女と行動を共にすることになる。

狭い町なので前夫や、前夫との間の子どもたちに出会うこともある。メアリーはみんなに明るく接するが、周囲にはどこか白けた空気が漂う。他人にどう言われようと、メアリーは気に病むそぶりは見せずに生活を続ける。ヴィリは沈黙して一人で過ごしていることが多く、実際にも鬱病を患っていた。

ヴィリは早熟で不良っぽいところがあり、友人たちと先生を誘惑できるかという賭けをしていたといわれる。だが、妊娠までは考えるだろうか? 多産DVという虐待の形がある。男性が女性に避妊をせずに性交渉を強要するDVで、男性の側が育児によって女性の自由や時間を奪い、自分の子を育てさせることで支配欲を満たすというものだ。だがメアリーとヴィリの関係は、おそらく避妊に関しては、メアリーが主導権を握っていたのではないかと思える。多産ではないけれど、13歳の少年が年上の出産経験のある女性に対して、慎重に避妊の有無を確認するとも考えづらい。なんとなく、メアリーは妊娠することでにっちもさっちもいかない状況に、二人の関係を追い込んだのではないか、という気がするのだ。妊娠で操った女性側からのDVというのも、成立するのではないかと考えてしまう。

13歳の父親は極端だが、年齢差のあるカップルは犯罪でない限りあくまで他人の自由で、基本的にとやかく言うつもりはない。個々で精神的、身体的成長も違うので、何歳からなら良いか、と線引きできる問題でもない。誕生日一日の違いで、未成年と大人の区別をつけるのも何か違うと思う。ただ、年の差カップルについて、純粋に話は合うのかなあという疑問は覚える。13歳と36歳のカップルで、なんの話題についてお喋りをしていたんだろう。

ちなみにメアリーとヴィリは結婚から12年後の2018年に離婚した。そしてメアリーは離婚後間もない2020年に、癌のため58歳で亡くなっている。

<オススメの作品>
『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』(1971年)

『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』

監督:ハル・アシュビー
脚本:コリン・ヒギンズ
出演者:バッド・コート/ルース・ゴードン/シリル・キューザック/チャールズ・タイナー/エレン・ギア

ハル・アシュビー監督による、年の差がもっとも大きい恋愛映画。母親の前で狂言自殺を繰り返す、厭世観に囚われた青年ハロルド。彼の趣味は知らない人の葬式に参列することだが、ある日同じように葬式を楽しむ老女と出会う。彼女は天衣無縫で、車は盗むし猛スピードで飛ばす。二人は詩や生きることについて、自然について、死について語り合う。ハロルドは彼女に影響を受け、次第に男女として愛し合うようになるが……。モードの怖いもの知らずの自由さには見惚れてしまう。

『ロリータ』(1962年)

『ロリータ』

監督:スタンリー・キューブリック
出演者:ジェームズ・メイソン/シェリー・ウィンタース/スー・リオン/ゲイリー・コックレル

スタンリー・キューブリック監督による作品。ヨーロッパからアメリカにやってきた大学教授のハンバートが、ロリータという少女が住む家に下宿することになる。ロリータの母シャーロットは彼に夢中になり、娘を厄介者扱いするのだが、ハンバートはロリータに一目惚れしていた。この大人の男女の、シャーロットは前面に女を出し、ハンバートは真意を隠す駆け引きのシーンがいい。特にハンバートがシャーロットの再婚相手に収まってから、彼がどこか冷たいので彼女は女性らしさを出して拗ねる。バスルームまで付きまとい、ハンバートが鍵を開けたとたん飛び込んでくる演出なども、必死さと執拗さの心理が生々しい。

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

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ライター紹介

真魚 八重子
映画ライター
映画評論家。朝日新聞やぴあ、『週刊文春CINEMA!』などで映画に関する原稿を中心に執筆。
著書に『映画系女子がゆく!』(青弓社)、『血とエロスはいとこ同士 エモーショナル・ムーヴィ宣言』(Pヴァイン)等がある。2022年11月2日には初エッセイ『心の壊し方日記』(左右社)が発売。
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