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真魚 八重子「映画でくつろぐ夜」

「映画でくつろぐ夜。」 第68夜

知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。

「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」

自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。

■■本日の作品■■
『スリーパーズ』(96年)
『ミスティック・リバー』(03年)

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

違う道へ行く仲間たち

皆さんは小学生や中学校のとき、仲良しだったグループはいるだろうか。放課後は毎日一緒に遊んでいたような仲間。残念ながら、わたしは一人で映画を観る生活だったので、そういう友人はいない。ただ、みんなもそんな友達がいても、関係を維持するのは難しいのではないだろうか。進む道が違ってくれば、会う機会や時間も減っていくのが現実だ。

こんなことを改めて考えたのは、2月2日公開のノワール映画『罪と悪』を拝見し、大変良く出来た作品で、まさに中学生の頃につるんでいた仲間のその後の話だからだった。ストーリーも見事なので、原作があるのかと思ったら、齊藤勇起監督のオリジナル脚本で驚いてしまった。本作は早い段階で事件を見せる。13歳の少年、正樹の遺体が河で発見された。友人だった春・晃・朔は、河原近くの掘立小屋に住む、挙動不審な男を犯人と決めつける。男は幼い少年に性的虐待を加えたことがあったのだ。春たちは男の元へ押しかけ、もみ合いになるうちに男を殺してしまう。これがまだアヴァンタイトルな構成も素晴らしい。

その後の彼らはまったく異なる道に進む。春は地元のチンピラの元締めに、朔は農業に従事していた。そこに刑事になった晃が移動で戻ってくる。それとほぼ時を同じくして、また川で少年の遺体が見つかるという事件が起こり、彼らは否応なく引き合わされていく。主演の高良健吾の佇まいがゾッとするほど鋭利で、それゆえにラストカットの情感が活きていた。

こういった映画のまさに代名詞が『スタンド・バイ・ミー』(86年)だろう。友人同士でも、中には家庭に問題を抱えた子がいたり、要領が悪い子がいたりする。大人になって、誰か一人は法の世界に進むのも定番だ。そして主人公は作家などの職業に進み、今この話の語り部である、というのもパターンだ。

『スタンド・バイ・ミー』を悲壮にした『スリーパーズ』(96年)という作品もある。悪童の仲間たちが度の過ぎたいたずらによって、少年院に入ることになる。だが、そこの看守は彼らに夜毎、性的虐待を加える変質者だった。少年院を出たのち、彼らも検事補、新聞記者、ギャングとまったく異なる道に進む。だがレストランで看守を見かけた、ギャングのジョンとトミーが咄嗟に看守を射殺したため、彼らは再び集い、無罪を勝ち取ろうとする。本作は陰惨な話ではあるが、キャストも豪華だ。後日譚の侘しさもやりきれなさが残る。

一番暗く、救いのない映画は『ミスティック・リバー』(03年)だ。幼馴染のジミー、デイヴ、ショーン。かつては仲良しだったのに、デイヴは11歳のときに、二人の目の前から連れ去られて性的虐待の犯罪被害者となってしまい、その事件以来、彼らは自然と離ればなれになった。成長していまやギャングとなったジミー、殺人課の刑事となったショーン、トラウマでいまだにぼんやりしているデイヴだが、ジミーの愛娘が殺害されるという悲惨な事件が起こる。その日デイヴは血にまみれた姿を目撃されており、ジミーはデイヴが犯人だと考える。

これらのほとんどの作品において、少年が年上の男性から受ける性的虐待が、何十年も尾を引いて、再び事件の火種となる。これは現実を反映していて、沈黙の陰に隠れているが、同様の犯罪が多いということだ。性被害は非常に言いづらい告白であり、加害者もそれをわかって行っているから、よりタチが悪い。それもあって、被害者は尊厳が打ち砕かれ、取り返しがつかずやり場のない恥辱で、冷静さを保つことが難しくなってしまう。同じ被害に遭いながら日常に戻れるメンタリティを持つ人もいるが、人は生まれつき心の耐久性も異なる。現実にも起こりうるこういった犯罪で、被害者はタフでいられない自分を責めないでほしい。

<オススメの作品>
『スリーパーズ』(96年)

『スリーパーズ』

監督:バリー・レヴィンソン
出演者:ジェイソン・パトリック/ブラッド・ピット/ロン・エルダード/ビリー・クラダップ/ロバート・デ・ニーロ/ダスティン・ホフマン/ケヴィン・ベーコン/ヴィットリオ・ガスマン

出演者がまず豪華だ。少年時代を演じるのはブラッド・レンフロ……、彼の名前も悲しくなる。一時は立ち直ろうとしていただろうに、オーバードーズで08年に25歳で亡くなってしまった。そのほかには、ロバート・デ・ニーロ、ダスティン・ホフマン、ケヴィン・ベーコン、ブラッド・ピットが出演している。デ・ニーロの奥行きのある神父役がいい。元々同じように街の悪童だったのに、どこかで改めて神父の道に進んだ人で、少年たちの気持ちもよく理解している。ケヴィン・ベーコンはこの辺りから悪役にも挑むようになって、魅力が増した。今もとりあえず彼が出演していたら観るようにしている。

『ミスティック・リバー』(03年)

『ミスティック・リバー』

監督:クリント・イーストウッド
出演者:ショーン・ペン/ティム・ロビンス/ケヴィン・ベーコン/ローレンス・フィッシュバーン/マーシャ・ゲイ・ハーデン/ローラ・リニー/エミー・ロッサム/

クリント・イーストウッド監督によるノワール。ジミーをショーン・ペン、ショーンをケヴィン・ベーコン、デイヴをティム・ロビンスという実力派が揃った映画で、イーストウッド本人は出ていない。もはや老害のように言われるイーストウッドだが、こういった渋い物語の作品は見落とさないでほしい。イーストウッド研究者はよく“十字架”が登場することに言及するが、本作だとショーン・ペンの背中の刺青がそうだ。あと、ティム・ロビンスがテレビで観ている映画が、ジョン・カーペンターの『ヴァンパイア/最期の聖戦』なのも気になる。

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

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ライター紹介

真魚 八重子
映画ライター
映画評論家。朝日新聞やぴあ、『週刊文春CINEMA!』などで映画に関する原稿を中心に執筆。
著書に『映画系女子がゆく!』(青弓社)、『血とエロスはいとこ同士 エモーショナル・ムーヴィ宣言』(Pヴァイン)等がある。2022年11月2日には初エッセイ『心の壊し方日記』(左右社)が発売。
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