樹の恵本舗 株式会社 中村 樹の恵本舗 株式会社 中村
ONLINE SHOP
MENU CLOSE
真魚 八重子「映画でくつろぐ夜」

「映画でくつろぐ夜。」 第65夜

知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。

「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」

自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。

■■本日の作品■■
『ウィッチ』(2015年)
『セイント・モード/狂信』(2019年)

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

「A24の知られざる映画たち」の豊かな作品群

日本で一般的に、A24という映画の配給制作会社が有名になったのは、アリ・アスターのフォークホラー『ミッドサマー』辺りからだろうか。しかしA24はホラーだけではなく、青春映画や人間ドラマ、アート系映画など様々な分野を手掛けている。面白そうな映画なら制作や配給をする姿勢なため、作品の表情が豊かだし、昔CDをレーベル買いしたように、A24でレーベル鑑賞してしまう。今月22日から、A24の映画を集めた特集上映が始まるので、お正月休みに通われてはいかがだろうか?

まず一番の話題は、今注目を浴びているケリー・ライカート監督の『ショーイング・アップ』(23年)。ちなみに日本では過去作の封切りが遅れていたため、偶然にも同じ12月22日に『ファースト・カウ』(20年)も公開される。こちらもA24だ。暗い作品も撮る監督だが、『ショーイング・アップ』は美術学校の展覧会のドタバタを描いていて楽しい。主人公のミシェル・ウィリアムズは講師のアシスタントをしており、自分の展覧会が迫っているのに他事ばかり頼まれて、全然制作に集中できない状況だ。彼女の飼っている猫はオス猫なのか、結構暴れん坊で、陶芸家であるウィリアムズの作品に手を出しそうで心配になる。

ちなみに以前、この連載で「ヘンになったお父さんが地面を掘り始める映画」という記事を書いたが、『ショーイング・アップ』でも、才能がありすぎてヘンになったウィリアムズのお兄さんが、地面に深い穴を掘っていて、我ながらゾッとしてしまった。誰か本当に、関連性を研究してほしい。

今回の特集で、意外に惹かれたのは『ロー・タイド』だ。海辺の田舎に住む4人の高校生たちが、夏休みに強盗を働いている。すると、その中の兄弟2人が高価な金貨を発見する。他の仲間に言うべきか迷っているうちに、不自然な態度が疑われるようになっていき、疑心暗鬼が生まれる。苦い青春を描いたサスペンスフルな作品だ。

『ロー・タイド』にも出演しているダニエル・ゾルガードリが主演の、『ファニー・ページ』の監督はオーウェン・クライン。彼は『イカとクジラ』で俳優デビューした、フィービー・ケイツの息子である。十分サラブレッドな育ちだが、『ファニー・ページ』はカートゥーン作家になりたい十代半ばの少年が、家を飛び出して劣悪な環境で様々な経験をしていくコメディだ。周囲の中年男性たちはみんなヘンな髪型で異常者ばかりである。テリー・ツワイゴフ監督の『クラム』を思い出してしまうような、苦みもひそんだ風変わりな青春映画。プロデュースをサフディ兄弟がてがけているのも見逃せない。

他にもマーティン・スコセッシが製作総指揮を務めた『エターナル・ドーター』は、ティルダ・スウィントンが母と娘の一人二役を務める。映画監督の娘が、謎めいた母を映画化しようとする物語だ。

打って変わってオースティン・ヴェセリーの長編監督デビュー作となる『スライス』は、B級ホラー風の、幽霊や狼男が当たり前のように共存している世界の物語。脱力系コメディで愛想があり、結構気に入ってしまった。

 

<オススメの作品>
『ウィッチ』(2015年)

『ウィッチ』

監督:ロバート・エガース
出演者:アニャ・テイラー=ジョイ/ラルフ・アイネソン/ケイト・ディッキー/ハーヴェイ・スクリームショー/ジュリアン・リッチングス

アメリカでの配給がA24。ロバート・エガースの長編初監督作品で、今や超売れっ子のアニャ・テイラー=ジョイの初主演作でもある。静謐で、それゆえに人の狂気がよけいとげとげしく感じる怖い映画。1630年の貧しく信心深い家庭で、悪魔をおそれるあまり狂気に陥っていく家族の物語だ。

『セイント・モード/狂信』(2019年)

『セイント・モード/狂信』

監督:ローズ・グラス
出演者:モーフィド・クラーク/ジェニファー・イーリー/リリー・フレイザー/リリー・ナイト/ターロック・コンベリー

これも全米配給がA24。監督、脚本のローズ・グラスはこれが初長編デビューとなる。主人公はとても信心深い女性モードで、末期がんのホスピスで働いている。しかしモードの信仰はエスカレートしていき、死にゆく者の魂の救済までを考え始める。

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

Product

ライター紹介

真魚 八重子
映画ライター
映画評論家。朝日新聞やぴあ、『週刊文春CINEMA!』などで映画に関する原稿を中心に執筆。
著書に『映画系女子がゆく!』(青弓社)、『血とエロスはいとこ同士 エモーショナル・ムーヴィ宣言』(Pヴァイン)等がある。2022年11月2日には初エッセイ『心の壊し方日記』(左右社)が発売。
Back