樹の恵本舗 株式会社 中村 樹の恵本舗 株式会社 中村
ONLINE SHOP
MENU CLOSE
真魚 八重子「映画でくつろぐ夜」

「映画でくつろぐ夜。」 第54夜

知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。

「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」

自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。

■■本日の作品■■
『魂のゆくえ』(2017年)
『昭和残侠伝』(1965年)

 

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

現代の任侠映画はアメリカに、そして任侠映画はBLになる

日本映画には、任侠映画というジャンルがあった。60年代が主流で、高倉健や鶴田浩二、女性では富司純子が主演の作品が多い。物語は、流れ者のヤクザが、旅先のヤクザの組に泊めてもらい、一宿一飯の義理ができる。義理がある限り、何か頼みごとをされたら、それは果たさなければいけない。大体は金儲けしか考えていない新興ヤクザの所でわらじを脱ぎ、そこに義理が出来てしまって、世のため人のために義侠心で生きている、地元で尊敬される親分の命を狙うことになる。

金儲けを考えるヤクザが卑怯なことをしようとすると、この人格者の親分が出てきて、「世間様に迷惑をかけちゃいけねえ」と町の人々を守る。それで恨みを買って、流れ者のヤクザが命令され、立派な親分を手にかけることになる。この流れ者にとっては、義理のために尊敬に値する人を切らなければならない、苦渋の決断だ。悪者たちはさらに一般の人々を搾取し、若い女性には狼藉をはたらき、いよいよ我慢の限界になった流れ者のヤクザは、義理を捨て悪者のヤクザの組に殴り込みに行く。ラストで悪者は全員倒れるが、流れ者のヤクザはおとなしく警察のお縄を頂戴し、善悪の割り切れなさ、やりきれなさを残す。

任侠映画の歴史は短かった。映画としてはすぐに実録ヤクザ映画路線に取って代わられた(Vシネマで復興してもいるが)。実録路線は、いわゆる『仁義なき戦い』に代表される、実話を基にしたリアリズムのヤクザものだ。確かに任侠映画は毎回善人が苦しみに追い込まれ、悪人はラストで成敗されるまでは意気揚々としていて、精神的に我慢を強いられるのは観客も限度があったかもしれない。

しかし、最近ハリウッドの新作映画の試写を観ていて、(まるで任侠映画だ)と思う作品に出会った。オスカー・アイザック主演の『カード・カウンター』(21年)である。監督、脚本はポール・シュレイダー。脚本家としては『タクシードライバー』(76年)が有名であり、この『カード・カウンター』はマーティン・スコセッシが製作を担当している。まさに『タクシードライバー』のコンビによる作品だ。

元上等兵のウィリアム・テル(オスカー・アイザック)は、刑務所での服役を終えた。そして今は、ギャンブラーとして出直そうとしている。適度に勝ったところでカジノを後にするという、きれいな勝ち方を心掛けて、次の街へと流れていく生活だ。しかしとある町で、彼が刑務所に入る原因となった人物、ゴード(ウィレム・デフォー)が著名人として公演をしているのに気づく。軍で捕虜に自白させるため、非人間的な方法を考案した男であり、ウィリアムはそれを実行する係だったことから、ムショ暮らしとなったのだ。そして同じくゴードに恨みを抱く青年カーク(タイ・シェリダン)と知り合いになる。ウィリアムはカークをいさめつつ、疑似父子のようになっていく。

ギャンブラー役のオスカー・アイザックの男振りの良さが半端なくて、終始見惚れてしまう。なんとも艶のあるいい男なのだが、悪人のゴードが恐ろしい過去を封印して活躍する姿を見て、ウィリアムの暗い記憶が騒ぎ出すあたりに、ポール・シュレイダーの任侠映画魂が浮かび上がる。シュレイダーはこれまでも、任侠映画に近い型の脚本を書いていて、『タクシードライバー』も一種の亜流といえるし、ロバート・ミッチャムと高倉健主演の、そのまま『ザ・ヤクザ』(74年)という映画のシナリオも書いている。しかし、『カード・カウンター』は任侠に真っ向から挑みつつも、あくまで洗練されているのが素晴らしい。そのアメリカ流のロマンティックさをぜひ堪能してほしい。

 

 

<オススメの作品>
『魂のゆくえ』(2017年)

『魂のゆくえ』

監督:ポール・シュレイダー
出演者:イーサン・ホーク/アマンダ・セイフライド/セドリック・ジ・エンターテイナー/ヴィクトリア・ヒル/マイケル・ガストン/フィリップ・エッティンガー/ヴァン・ハンシス

ニューヨーク州の小さな教会で、牧師を務めるトラー。彼は信徒のメアリーから相談を受け、彼女の夫と話す。彼は環境保護運動の過激派のようだ。トラーは教会が汚染を撒く企業から、間接的に献金を受けている事実を知ってしまう。トラーは聖職者として憤怒を覚え、やがてある決意をする。主人公がずっとメモに心の声を書きつけ、自罰的なところも『カード・カウンター』の前哨戦のよう。

『昭和残侠伝』(1965年)

『昭和残侠伝』

監督:佐伯清
脚本:山本英明/松本功/村尾昭
出演者:高倉健/三田佳子/池部良/菅原謙次/(菅原謙二)松方弘樹/梅宮辰夫/水上竜子/山本麟一/江原真二郎/室田日出男

任侠映画には色々なシリーズものがある。その中でも『昭和残侠伝』は高倉健と、元々は東宝の人気俳優である池部良とのコンビが異彩を放った。池部はモダンな雰囲気の俳優なのに、意外にも着流しのヤクザものが似合っていた。なによりも、高倉健と池部良の組み合わせが、池部の色気もあって任侠BLの雰囲気がムンムンしていて、家で観ていると思わず「キャーッ」と言ってしまうシーンが何度もある。2人の道行き(殴り込みに向かうシーン)も必見。シリーズ全作オススメ。

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

Product

ライター紹介

真魚 八重子
映画ライター
映画評論家。朝日新聞やぴあ、『週刊文春CINEMA!』などで映画に関する原稿を中心に執筆。
著書に『映画系女子がゆく!』(青弓社)、『血とエロスはいとこ同士 エモーショナル・ムーヴィ宣言』(Pヴァイン)等がある。2022年11月2日には初エッセイ『心の壊し方日記』(左右社)が発売。
Back