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真魚 八重子「映画でくつろぐ夜」

「映画でくつろぐ夜。」 第36夜

知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。

「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」

自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。

■■本日の作品■■
『mid90s ミッドナインティーズ』(2018年)
『修羅雪姫』(1973年)

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

Tシャツのデザインで知る流行の映画

毎年、夏になるとつい映画Tシャツを探してしまう。去年まではアニメの『アドベンチャー・タイム』にはまっていたので、何種類も買ってどこへ行くにも着ていたのだが、アニメの終了とともに新作の販売もなくなってしまった。

最近流行の映画やアニメのTシャツも当然売られているのだが、ファッションブランドだとリバイバル柄が多い。今何が改めてオシャレで、何がまだダサいか。Z世代という言葉が盛んに言われるように、確かに90年代後半から00年代のミレニアム文化が流行っているようだ。若い映画の作り手が自分の多感な時期を映画化することもあって、90年代を忠実に再現した映画も多い。たとえば、コメディから出発し、いまやアカデミー賞助演男優賞ノミネート俳優となったジョナ・ヒル。彼が監督デビューを飾った『mid90s ミッドナインティーズ』(18年)は、タイトル通り、90年代のスケボー仲間との人種の壁を超えた、不良の世界に染まっていく少年を描いた作品だった。

有名なセレクトショップである、ジャーナル・スタンダードも今年は90年代のティーンを扱った映画や写真集をフィーチャーした。カメラマンのラリー・クラークだ。彼が監督した『KIDS』(95年)のオリジナルポスターは、4人の登場人物が正方形で赤、黄、青、緑の原色に塗られ、四角を作っているデザインだったが、これの摸倣も当時はどれだけ見たことだろう。映画の出来は決して良くはなかったが、堕落した子どもたちの日常という、触れると血が出るような時代の切っ先を現していて、その鋭さはいまも変わらないということなのだろう。

また、今年目立っていたのは『パルプ・フィクション』(94年)や『キル・ビル』(03年)のデザインだった。リアル世代的に、わたしは一番恥ずかしくて着られないが、若い人にとってオシャレなのだろうなあと思う。
『キル・ビル』といえば、ルーシー・リューの役柄は梶芽衣子へのオマージュとして知られている。そして今年の5月、「ブラックスキャンダル ヨウジヤマモト」は梶芽衣子とのコラボレーションを発表した。梶芽衣子本人がモデルをつとめ、あの『女囚さそり』の黒い帽子に黒いコートの姿を披露した。中にはみずからの顔がプリントされた、ジャケットやニットを着用し、凄みを放っているポートレートもある。それにしてもお値段があまりにハイブランドらしくて、到底手の届くものではなかったが……。
梶芽衣子の場合は、彼女が70年代に出演した映画が、90年代にカルト的に再評価された時期があった。『キル・ビル』は撮影が遅れてゼロ年代に入ったが、タランティーノも梶を『キル・ビル』で大々的にフィーチャーした。
できれば服のデザインに収まらず、若い方には梶芽衣子が出演した『女囚さそり』シリーズも観てほしい。非常にアヴァンギャルドで驚かされる映画だ。ちなみに90年代半ば、MTVで放映されていた『ビーバス・アンド・バットヘッド』というアニメがあり、バカげた内容で人気を博したのだが、この夏はそのリバイバルも来ていた。しかし当時MTVを観ていた子どもも、いまやちゃんと働いてお金を払える世代になっている。そんな回顧する大人が購入する価格設定で、貧乏なわたしには手が出なかった。

<オススメの作品>
『mid90s ミッドナインティーズ』(2018年)

『mid90s ミッドナインティーズ』

監督/脚本:ジョナ・ヒル
出演者:サニー・スリッチ/キャサリン・ウォーターストーン/ルーカス・ヘッジズ/ナケル・スミス/ジェロッド・カーマイケル/アレクサ・デミー

ジョナ・ヒルの初監督作品。90年代を色濃く再現した青春映画だ。ロサンジェルスで、兄と母と3人で暮らす13歳の少年スティーヴィー。兄には腕力でいつも負かされているが、兄の聞いている音楽や収集しているスニーカーなどが気になってしかたない。スティーヴィーは思い切ってスケボーショップに顔を出すと、なんとなく仲間に入れてもらえるようになる。気性の荒い彼らとつるむうちに、スティーヴィーは兄に対しひるむことも減っていく。若者にとって憧れでありつつ、不良文化にも接していく危険性の中で、13歳の少年が揺れる姿を描く。

『修羅雪姫』(1973年)

『修羅雪姫』

監督:藤田敏八
原作:小池一夫/上村一夫
出演者:梶芽衣子/赤座美代子/大門正明/内田慎一/楠田薫/根岸明美/西村晃

タランティーノの『キル・ビル』に強い影響を与えたとして知られる作品。なんせエンディングでは、そのまま梶芽衣子が歌う『修羅雪姫』のテーマ曲『修羅の花』が流れるのだ。ルーシー・リューのいでたちも、『修羅雪姫』の梶芽衣子へのオマージュが強い。また、本作の主人公である修羅雪には親の仇が4人いるのだが、その構図も『キル・ビル』を髣髴とさせるものだ。本作は続編『修羅雪姫 怨み恋歌』も作られており、このオープニングでの梶のワンカット長回しの殺陣も素晴らしい。梶芽衣子は最近だと、ドラマ『きのう何食べた?』で、息子の西島秀俊がゲイであることが受け入れられない母親役が印象的だった。

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

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ライター紹介

真魚 八重子
映画ライター
映画評論家。朝日新聞やぴあ、『週刊文春CINEMA!』などで映画に関する原稿を中心に執筆。
著書に『映画系女子がゆく!』(青弓社)、『血とエロスはいとこ同士 エモーショナル・ムーヴィ宣言』(Pヴァイン)等がある。2022年11月2日には初エッセイ『心の壊し方日記』(左右社)が発売。
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