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真魚 八重子「映画でくつろぐ夜」

「映画でくつろぐ夜。」 第117夜

知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。

「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」

自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。

■■本日の作品■■
『戦慄の絆』(1988年)
『赤ひげ』(1965年)

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

医療現場の映画

3月6日から公開になる『ナースコール』を、試写で大変面白く拝見した。ナースたちはとにかく忙しく、ただならぬ緊張感に晒されている。主人公は中堅看護師のフロリアで、映画は彼女の一日を追う。特にその日は病欠が出て看護師が少なく、さらに新人の育成もしなければならない。フロリアが注射一本打つ間にも、否応なくナースコールが鳴っていて、1.5倍速度の仕事をしているような状態だ。それでも人の命を預かる仕事ゆえに、瞬時に判断しながら間違いは許されない。もちろん患者からはナースコールを押しても全然来てくれないという苦情ばかり言われて、人手不足の環境ではフロリア自身どうしようもない。通常の苦情だけなら良いけれども、中には病院を脱走するようなトラブルメーカーの患者までいる。

医療映画はたくさん観ているような気がするけれど、現場の男女の愛憎が入り乱れたドロドロな話とか、立身出世を望む野望の映画などではなくて、現場のリアリティが観たい。最初にそういったもので面白かったのは、ドラマの『ER緊急救命室』で、あれも恋愛でグチャグチャしてはいたけれど、鬼気迫る忙しさの中で起こる医療ドラマとしての部分がとても緻密に構築されていた。

医療ドラマだけで成り立つのに、人間のドロドロしたドラマの要素が加わるのは何故だろうか。世界で全身麻酔による手術を初めて成功させた花岡青洲を扱った、増村保造監督の『華岡青洲の妻』も、映画は「我先に」と麻酔の検体になろうとする、嫁と姑のいがみ合いを描いた作品だった。あとは野村芳太郎監督の『背徳のメス』も宗教団体が母体の病院で、医師が複数の女性看護師と関係を持っていたり、金にならない患者は適当にあしらったりと、最悪な病院が舞台だ。そこで起こった殺人未遂で、命を狙われた医師が捜査をしていくのだが、今ならセクハラで使ってはいけない言葉も出てきて気分の悪い映画である。

病院は回復を目指すための良い場所であるはずなのに、わたしの記憶から出てくるのはちょっと歪んでいて、たとえばカーティス・ハンソン監督の『ゆりかごを揺らす手』だ。妊婦が診断中に産婦人科医から猥褻な行為をされ、相談した夫の勧めもあり告訴。するとその産婦人科医は自殺してしまうという出だしだった。この病院のキンと冷えて静まり返った不気味さが印象に残っている。美学的にはもちろんデヴィッド・クローネンバーグ監督の『戦慄の絆』は大好きだ。これも産婦人科医で双子の医師が特殊な道具を作り出し、真っ赤な手術着でオペをするのが、初めて観る光景で素晴らしすぎて痺れたものだった。

それと、意外に好きな映画は黒澤明監督の『赤ひげ』だ。『戦慄の絆』と差がありすぎるが、善意を描いた映画も感動的で素晴らしいと思う。でも、今まで「『赤ひげ』好きなんだよね」と言って、誰にも同意してもらったことがない。みんなほっこりした生ぬるい映画だと思っているのだろうか。結構登場するそれぞれの逸話は痛烈で泣けてしまうと思うのだが……。3時間あるので確かに長いのだが、金持ちが心に異常をきたした娘を土蔵に閉じ込めて、雇った娘に24時間看病させている話の顛末など、人道的ですごくいいなあと思う。あと、井戸を巡るお話も泣けてしまうので観てほしい。

<オススメの作品>
『戦慄の絆』(1988年)

『戦慄の絆』

監督:デヴィッド・クローネンバーグ
出演者:ジェレミー・アイアンズ/ジュヌヴィエーヴ・ビジョルド/ハイジ・フォン・パレスケ/バーバラ・ゴードン/シャーリー・ダグラス/スティーヴン・ラック

原作の小説は『双生児』から『戦慄の絆』に改題されて、今は中古で購入可能。ニューヨークで実際に起こった、双子の医師が隣り合う部屋で共に衰弱死していた事件から、着想を得ている。そっくりだが明らかに性格上の違いがある双子を演じ分けた、ジェレミー・アイアンズの芝居が凄い。物語が虚ろになっていき、ラストに向かって双子のバランスが崩れていくのも儚い。

『赤ひげ』(1965年)

『赤ひげ』

監督:黒澤明
出演者:三船敏郎/加山雄三/山崎努/団令子/桑野みゆき/香川京子

黒澤明と三船敏郎の長年に渡ったコンビの最終作。江戸時代の小石川養生所が舞台で、通称赤ひげと呼ばれる所長は貧乏人にも頼られる善人で、ちゃんとした技術も持った医師。周囲の裏切りで赤ひげの弟子になった青年医師保本(加山雄三)が、最初は赤ひげへ反発していたが、次第に尊敬の念を抱くようになっていく様子を描く。

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

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ライター紹介

真魚 八重子
映画ライター
映画評論家。朝日新聞やぴあ、『週刊文春CINEMA!』などで映画に関する原稿を中心に執筆。
著書に『映画系女子がゆく!』(青弓社)、『血とエロスはいとこ同士 エモーショナル・ムーヴィ宣言』(Pヴァイン)等がある。2022年11月2日には初エッセイ『心の壊し方日記』(左右社)が発売。
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