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真魚 八重子「映画でくつろぐ夜」

「映画でくつろぐ夜。」 第106夜

知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。

「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」

自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。

■■本日の作品■■
『エグザイル/絆』(2006年)
『神探大戦』(2022年)

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

ジョニー・トーとワイ・カーファイの不思議なコンビ

今年の初めに香港映画の『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』がヒットを記録した。熱狂的ファンを生み出し、ロングラン上映となった。アクション映画だが観客は女性が多く、久々に香港映画を日本で支えてきた女性ファン層が活発化した印象だった。

作家主義的に人気を集めている監督では、ジョニー・トーが有名だ。最近のトー監督は、中国の製作で映画を撮る不自由さから、寡作となってしまったが、一時期までは映画を量産していた。映画監督兼脚本家のワイ・カーファイと共同で、自分たちの映画製作会社銀河映像を作り、そこで映画制作をしている。

ワイ・カーファイは奇才で、「もし画家のゴッホが刑事だったら」という発想から生まれた『マッド探偵 7人の容疑者』の、ジョニー・トーとの共同監督と脚本を務めている。主人公は他人の中の多重人格が、文字通り複数見え、それらの人格になぞらえて捜査するために、一見統合失調症のような言動をする。しかし退職後に、現役の刑事に頼まれて協力した困難な捜査で、犯人と思しき男に7つもの人格があるのが見えてしまう。

この変な内容を軽妙なタッチで、魅力的に映像化するのがジョニー・トーだ。ワイ・カーファイとジョニー・トーは異なる作風だが、それだけに二人が協力すると最大限の力を発揮する。2人の分業や協力加減はいつも同じとは限らず、ノワールな雰囲気が強ければジョニー・トー、突飛な内容の時はワイ・カーファイ要素が強いと思えば大体あっている。

『マッスルモンク』という、アンディ・ラウが還俗した元僧侶で、今は男性ストリッパーとしてムキムキの体を見せる映画もある。アンディ・ラウが筋肉の肉襦袢を着ているのがおかしい。これもアンディ・ラウが人の前世が見えてしまうという設定で、ワイ・カーファイ要素が大きい。しかしワイ・カーファイが単独監督した映画は本当に訳がわからなくて、まず日本に入ってくることもほとんどないため、ジョニー・トーの翻訳的な演出があって、初めて理解できる映画になるといえる。

ジョニー・トーの映画で人気が高いのは『ザ・ミッション/非情の掟』だろうか。黒社会のボスのボディガードとして集められた、5人の男たちの戦いと絆を描いている。本作は権利関係で長らくDVDも廃盤になってしまっている。わたしは公開時にジョニー・トーにはまっていたので、封切りの劇場で観ていたが、その頃はまだ劇場はガラガラだった。今、権利がクリアになって劇場でかけることができれば、大入りになるんじゃないだろうか。5人の間に絆が生まれるものの、とある一人が黒社会で守らなければならない掟を犯してしまう。それを前にしてどう振舞うかが手に汗握るクライマックスとなる。

ジョニー・トーではやはり、黒社会の男たちを描いた『エグザイル/絆』も男たちの熱い友情を描いた作品だ。暗殺に失敗した男を消すために訪れた男たちと、彼を守るためにやって来た男たち。かつては仲間だった彼らが見事な構図で撃ち合いをしたあと、ひとまず休戦となって仲良く現場の家の修繕をし、食卓を囲む。この食事のシーンがジョニー・トーの名物だ。出てくる食べ物がおいしそうなことと、今は敵対する仲間も気心が知れていて、お互いに話し合いもなく自然に食事をしたり、笑い合いながら記念撮影をしたりするスタイリッシュさに痺れる。

<オススメの作品>
『エグザイル/絆』(2006年)

『エグザイル/絆』

監督:ジョニー・トー
出演者:アンソニー・ウォン/フランシス・ン/ニック・チョン/ラム・シュー/ロイ・チョン

ジョニー・トーファンでは、これをベスト3に入れる人が多いんじゃないだろうか。そのくらいトー監督のエキスが詰まった格好良さ。元仲間同士の撃ち合いのシーンでは、お互いの弾の数を揃えて不公平がないようにする男気を見せる。殺される運命にある男が妻子に金を残したいというと、みんなで協力し合うという、幼馴染の絆が描かれる。レストランでの銃撃戦も無駄な弾がなく、一発一発に意味があるのがプロフェッショナル。

『神探大戦』(2022年)

『神探大戦』

監督:ワイ・カーファイ
出演者:ラウ・チンワン/シャーリーン・チョイ/レイモンド・ラム

まさにワイ・カーファイワールドで、訳がわからないこと山のごとし。でも冒頭だけフルスピードなだけで、中盤からは理解できるから大丈夫。『MAD探偵 7人の容疑者』のスピンオフ的作品で、ワイ・カーファイ監督と主演のラウ・チンワンが再びタッグを組んでいる。港で人が生きたまま焼かれる事件が発生し、現場には「神探」という文字が残されていた。一方、かつて「神探」と呼ばれた刑事のレイは、精神に異常をきたしたと思われ、職場を追われていた。そんななか、過去の猟奇事件の模倣犯が続出する。なんとも魅力的なラウ・チンワンの活躍が嬉しい。

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

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ライター紹介

真魚 八重子
映画ライター
映画評論家。朝日新聞やぴあ、『週刊文春CINEMA!』などで映画に関する原稿を中心に執筆。
著書に『映画系女子がゆく!』(青弓社)、『血とエロスはいとこ同士 エモーショナル・ムーヴィ宣言』(Pヴァイン)等がある。2022年11月2日には初エッセイ『心の壊し方日記』(左右社)が発売。
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