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真魚 八重子「映画でくつろぐ夜」

「映画でくつろぐ夜。」 第105夜

知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。

「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」

自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。

■■本日の作品■■
『紳士は金髪がお好き』(1953年)
『百万長者と結婚する方法』(1953年)

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

コメディエンヌとしてのマリリン・モンロー

映画館で最初に痴漢に遭ったのは、14歳の時、ジョン・ヒューストン監督の『荒馬と女』を観に行った際だった。主演はマリリン・モンローとクラーク・ゲーブル。映画については、マリリンが仕事を終えたカウボーイたちに振舞うレモネードがおいしそうだな、と思った以外、痴漢にびっくりしたせいで、他の内容は何も覚えていない。満員の劇場で隣に座った男性が、わたしの脚にもジャンパーをかけてきたので、怪訝に思っていたらそれは映画館に出没する痴漢の手口だった。すぐジャンパーを払いのけて止めさせたが、気持ち悪くて映画どころじゃなくなり、本当に悔しかったのを今でもフツフツと怒りとともに思い出す。

その後も成人映画扱いの『ラストタンゴ・イン・パリ』で痴漢に遭ったことを考えると、マリリン・モンローの映画だから、艶笑譚と思って痴漢が出没したのだろうか。彼女の出演作の中でも、演技派への移行を頑張ろうとしていた晩年の遺作であって、全然そんな映画ではないのに、やはり色々と不愉快で腹立たしい記憶だ。

マリリン・モンローの映画は艶笑譚やロマンチックコメディが多い。『紳士は金髪がお好き』は特に楽しい作品だ。マリリン・モンローとジェーン・ラッセルのコンビは美しいショーガール。特にマリリンはダイヤモンドが何より好きな拝金主義的な女性なのだが、『ダイヤは女の最良の友』を歌うミュージカルシーンでは、「女性は若さを失うと価値がないように扱われるから」、その時に信じられるのはダイヤモンドだけ、という痛切な理由が語られる。この映画では船旅の場面で男性のオリンピック選手の一行が登場し、女性の水着姿ならぬ男性の下着姿での運動がミュージカルシーンとなる。ここでは男性の鍛えた身体も鑑賞用として扱われるのだ。

『百万長者と結婚する方法』のマリリンは、ベティ・グレイブル、ローレン・バコールの三人でヒロインを務める。このマリリンはド近眼の設定で、眼鏡をかけた女性は美しくないからという理由で、近眼のまま出歩いて壁に激突したり、段につまずいたりして笑いを誘う。男性がいないところでこっそり眼鏡をかけているマリリンは、もちろん可愛らしく魅力的だ。

マリリンはコメディ映画として人気が高い『お熱いのがお好き』にも出演しているが、全体的には評価に恵まれなかった傾向がある。それが演技派に変わりたいという彼女の希望に反映されていたのだろうし、仕事への不満が長らく患っていたという鬱病の原因になったのかもしれない。しかしダム・ブロンドと呼ばれる、典型的なお色気だけの金髪ガールという評価に押し込まれて、女優としては扱いが低かったのは評論の問題ではないか。

シリアスな演技だけが評価をされるべきではなく、コメディで才能を発揮するタイプの女優だっている。コメディエンヌ性に正当な高い評価を下せば、よりそういった映画が充実して作られる可能性に関わっていたと思う。また、コメディエンヌとしてのスピード感がある面白さと、艶笑譚もまたちょっと異なる。マリリンにはシュールなスクリューボールコメディが意外に似合っていて、逆に『七年目の浮気』や『王子と踊子』のような個室が舞台のまったりした映画は、コケティッシュさが求められてスピード感に欠けるのだ。世間一般の見方に流されるのではなく、そういった意外な才能を見出して認めることが、評論家に求められる仕事ではなかっただろうかと思う。

<オススメの作品>
『紳士は金髪がお好き』(1953年)

『紳士は金髪がお好き』

監督:ハワード・ホークス
出演者:マリリン・モンロー/ジェーン・ラッセル/チャールズ・コバーン/トミー・ヌーナン/エリオット・リード/テイラー・ホームズ/ジョージ・チャキリス

名匠ハワード・ホークス監督によるミュージカル映画。途中でマリリン・モンローが歌う『ダイヤは女の最良の友』は、マドンナの『マテリアル・ガール』でオマージュが捧げられている。シュールなくらいのスクリューボールコメディで、マリリンの魅力が弾けている。密室で男女がやりとりするドラマよりも、こういった破壊的なコメディの方がリズム感としてマリリンには合っている。

『百万長者と結婚する方法』(1953年)

『百万長者と結婚する方法』

監督:ジーン・ネグレスコ
出演者:マリリン・モンロー/ローレン・バコール/ベティ・グレイブル/キャメロン・ミッチェル/ウィリアム・パウエル/デヴィッド・ウェイン

マリリン・モンローと、クールビューティーなローレン・バコールという異色の顔合わせによる、スクリューボールコメディ。実質的な主役はバコールで、彼女が結婚していたハンフリー・ボガートとの内輪受けのギャグもある。マリリン・モンローは近眼の役柄で、事情があって家に忍び入った家主を客だと思い、丁寧に挨拶する素っ頓狂な芝居を見せるのが可愛らしい。

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

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ライター紹介

真魚 八重子
映画ライター
映画評論家。朝日新聞やぴあ、『週刊文春CINEMA!』などで映画に関する原稿を中心に執筆。
著書に『映画系女子がゆく!』(青弓社)、『血とエロスはいとこ同士 エモーショナル・ムーヴィ宣言』(Pヴァイン)等がある。2022年11月2日には初エッセイ『心の壊し方日記』(左右社)が発売。
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