「なるべく豪華な晩餐を」
たべるときに思ったあんなこと、こんなこと。
生きていくためには食べなきゃいけない。食べるためには生きなきゃいけない。
でもせっかくならいい気分で食べたいよね。食べながら素敵なことに思いを馳せたいよね。
なるべく豪華な晩餐を。
モモコグミカンパニーが綴る、食事をきっかけにはじまる美味しい感じのエッセイです。
〜渋谷のガトーショコラ〜
初期BiSの解散10周年再結成ライブを観に行ったあと、そのメンバーでもあるファーストサマーウイカさんに連絡をいれさせてもらった。
ウイカさんは以前からBiSHのことをよく可愛がってくれていたが、私個人としては、折り入って話すほど距離が近いわけでもなく、私からウイカさんを誘うのは珍しいことだった。
若干烏滸がましいかな?と思いつつも、勇気を出して素直に「話したいです!」とメッセージを送ると、ウイカさんは「いいよ、話そう!」と快く返事を返してくれた。
初期BiSが解散してから一夜の再結成までの10年間でBiSHが発足、解散までした。そう考えると、なんだか10年はとても長く壮大な感じがする。しかし、初期BiSの一夜限りのステージを見てまず感じたのは、その逆で10年ってそれほど長いものではない、意外と短いんだなということだった。ファンである研究員の熱量も、メンバー皆さんのパワーも、私が10年前の解散ライブをDVDでみた光景から衰えてはいなかった。エンタメシーンでの10年というと移り変わりは激しい、だけど人間一人の10年はそれほど移り変わるものではないのかもしれない。
ちょうどBiSHも今年の6月29日で解散してから一年経ったばかりで、私自身、この一年色々と活動してきた中で積もるところもあった。自分は一人で立てているのか、なりたい姿になれているか、考え込んでしまうこともあった。
しかし、10年でも短いのに、1年なんてもっと短い。私なんて、まだまだ駆け出しで当たり前なんだと思い直すと同時に10年後の自分について考えるきっかけももらえた。
ウイカさんとはライブから3日後、渋谷のカフェで15時に待ち合わせた。対面で席に座って、デザートとドリンクを頼んだ。それぞれ何を頼んだかよく覚えていないけど、私は確かデザートにガトーショコラを頼んだ。
私は、ウイカさんにまず、復活ライブの自分なりの感想と感謝を伝えた。うまく伝えられたかはわからないけど、言っている間、なんとなく涙が出そうになった。
思い出した、本当のことを伝えようとするといつだって、涙が込み上げてくるんだ。
もちろん、困らせてしまうだろうからグッと堪える。
それから、ウイカさんに今の自分が抱えている悩みを相談した。ウイカさんは私の取り留めのない話を時々まとめてくれたりしながら、とても真摯に向き合って聞いてくれた。
いろんな角度からキレキレの言葉をもらう中さすがだなと思いつつも、テレビの中で、あんなにたくさん話してるウイカさんに自分だけのためにたくさん話させてしまって少し申し訳なかったけど、嬉しい気持ちでいっぱいだった。
「それで、モモコは何が一番嫌なの?」
「モモコはどう在りたいの?」
話の節々で、ウイカさんが私にこんな質問を投げかけてくれたのが意外だった。
私は、無意識にこの世の中の正解やらルールやらを求めていて、自分がどうしたいかは二の次に考えてしまっていたし、私個人の想いよりもその規範に合わせるべきだと思っていたのだ。
それで今日も、ウイカさんに自分の答えられない回答、正解を教えてもらおうと思っていたのかもしれない。
型にハマっていない旧BiSを知り、型を破りたくてBiSHに入ったのに、解散してから私が求めていたものは皮肉にも「型」だったんだと気がつく。
そりゃ窮屈になるに決まってる。
私の回答は、大前提誰にも教えてもらうことなんてできない。
なんだか、参考書には載ってない、抜け道に気づかせてもらった気がした。
今まで味なんて気にせずに口に運んでいたガトーショコラがほろ苦く口の中に広がった。
これを甘いと思うか、苦いと思うかは自分次第。
自分で口に入れたものを、他の人に「これってどんな味?美味しいって思うのが正解?」
なんて聞いても埒が開かない。
素敵な正解はきっと私の中にある。
たとえそれが、誰かの丸ではなくても。
今感じている日々の味、悲しいこと、上手くいかないこと、嬉しいことも、自分次第でどんどん味を変えていく。
10年後には一体、どんなものを味わっているんだろう。
やっぱり考えてもわからないから、その時の私に任せよう。