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1話イラストB

こんな時間にかけてる電話 第10回

23時54分。この世界の何処かから聞こえる、誰かと誰かの真夜中の通話劇。

バイトリーダーと新人スタッフ

「あ、もしもしー」
「あ。繋がった。もしもし赤井くんー?」
「はいー」
「はいー、じゃなくて」
「え?」
「キミ、何してくれてんの?」
「え……? あの、何がですか……?」
「いや、今日キミ、シフトだったんだけど」
「え? 今日……? 今日ですか?」
「うん、そう。すっぽかしたでしょ」
「え! え!? 嘘! すみません! すみません!」
「すみませんってさー。キミ、まじで忘れてたの?」
「はい、すみません、今日は、シフト入ってないかと……」
「そんなのさあ、ちょっと調べればわかるじゃんよー。困るのよそれじゃあ」
「いや、本当すみません! え、やば、本当ごめんなさい!」
「てか、今まで連絡つかなかったのはどういうこと?」
「すみません、普通に携帯を家に忘れて、出掛けてました」
「はあ? そんなこと普通なくない?」
「すみません、でも本当で」
「いやー、ちょっと、さすがにさあ、僕、前にも言わなかったっけ? 無断欠勤だけはダメよって」
「はい、聞きました……」
「そうだよねえ? この仕事、簡単には代わりが見つからないからねって前から言ってるよねえ?」
「はい、すみません」
「あのさー、バイトだからって適当にやられんのが一番腹立つんだよね。赤井くんどうせあれでしょ? 学生は学業が本分とか、そんなふうに思ってんでしょ?」
「いやいや! そんなことないです。本当に、これが大事と思ってます」
「だったら休まねぇよ、このタコ」
「はい! 本当にすみません」
「もう、ちょっとさー、本当に。次やったら絶対クビだよ? 今日はどうにか収めたけど、まじでやばかったからね?」
「はい。……あの、収めたって、その、どうしたんですか? 僕のポジションは」
「ええ? タイムーさん使ってどうにかしたよ」
「え、タイムー!? タイムーで僕のポジションいけたんですか!?」
「うん。たまたま経験者ですって人がいたから。本当、奇跡だよ、奇跡」
「戦隊モノのヒーローバイトに!? タイムーで!? 経験者がいたんですか!?」
「おお。レッドやってたっていうから。ばっちりじゃんって」
「そんなことあります!? いや、え、奇跡っていうか、それ、すごくないですか?」
「おお。バシーってキメてたわ。なんなら赤井くんよりもこなしてたと思うよ?」
「いや、ちょ、そんなこと言わないでくださいよ」
「しょーがないでしょうキミがサボったんだからー」
「すみません、それは、本当すみません。でもその、タイムーでよく求人出しましたね?」
「キミが連絡つかないから必死にやったんですよこっちも」
「それは、本当にすみません」
「てか、前から言おうと思ってたんだけどさ、赤井くん、僕のことフリーターだからって舐めてるでしょ?」
「いやいやいや! そんな! そんなことないです!」
「いや絶対そうだよ。しかもアレでしょ? フリーターでバイトリーダーなのに、配役イカ星人かよとか思ってるよね?」
「いやいや! 全然。全然そんなことないです。猪狩さんのポジション、すごい、大事です」
「キミさっきからちょっと笑ってない?」
「笑ってないです。本当に、はい、まじめです。イカ星人、大好きです」
「嘘つけよお前! イカ星人を好きでやってるやつなんていねえよこの業界に!」
「いや! はい! でも、あの、大事な、ポジションだと思います!」
「ボスの横にくっついてるやられキャラで語尾が『じゃなイカ?』のやつが大事なわけねえだろうが!」
「はい! すみません!」
「ったく。何なんだよ本当に」
「でもあの、猪狩さんじゃないとあの、『じゃなイカ?』の裏声は、出ませんから」
「レッドやってるキミに言われるのがイッチバン腹立つんだよねそれ」
「はい、すみません。はい」
「ねえ、本当に。レッドいない戦隊モノなんて、子どもが悲しんで、泣いちゃうよ?」
「はい。そうですよね、はい」
「主人公ってそんだけの責任があるわけ。今回はたまたまタイムーさんでいけたから良かったけど、そんなのラッキーだかんね?」
「はい。でもちょっとあの、そのタイムーさんがすごすぎませんか? なんで採用できたんですか」
「知らないよそんなの。条件ハマったから『ぜひ!』ってなっただけだよ」
「え、その、条件って何を挙げたんですか?」
「えー、経験者優遇」
「そんなひと普通いないですよ。戦隊モノの経験者でタイムーなんて消極性の塊みたいな求人サービス登録する人、いるわけないじゃないですか」
「でも、いたから」
「それに驚いてますけれども。え、あの、ほかの条件は?」
「要・バク宙8連続」
「バカみたいな求人じゃないですか」
「でも、実際必要だし。だからキミがシフト空けたら困るって言ってんのよ」
「それは本当にすみません。でも、よくそれで応募してきましたね?」
「たまたまバク宙8連続いけたから良かったよ本当に」
「たまたまバク宙8連続いけることってあるんですね。正式に雇ったほうがいいですよその人」
「いやーさすがに声かけたよ。あなたがいたら助かりますって」
「それで、なんて言ってました?」
「断られた。タイムーのほうがいろいろ助けられますからって」
「それもう本当のヒーローじゃないですか」
「確かにそんな気がしてくるけれども。でも、そもそもキミのせいだからね?」
「はい、それは、本当にすみませんでした」
「うん。さすがに看過できないし、これは運営会社にも報告してあります」
「そうですよね、はい。すみません」
「はい。じゃあ、次のシフトは今週末なので。よろしくお願いします」
「はい、頑張ります。おやすみなさい」
「おやすみなさい」

次の誰かの23時54分へ続く

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ライター紹介

カツセマサヒコ
ライター/小説家

1986年東京生まれ。2014年よりライターとして活動を開始。2020年『明け方の若者たち』(幻冬舎)で小説家デビュー。同作は累計14万部を超える話題作となり、翌年に映画化。2作目の『夜行秘密』(双葉社)も、ロックバンド indigo la Endとのコラボレーション小説として大きな反響を呼んだ。他の活動に、雑誌連載やラジオ『NIGHT DIVER』(TOKYO FM 毎週木曜28:00~)のパーソナリティなどがある。

【Instagram】:katsuse_m
【X】:@katsuse_m
こいけぐらんじ
画家、イラストレーター、音楽家
愛知県立芸術大学油画専攻卒業。2010年頃から漫画の制作を始め、「うんこドリル」シリーズ(文響社)のイラストや、OGRE YOU ASSHOLEのアニメーションによるCM制作など、活動の場を広げている。また、バンド「シラオカ」ではVo./Gt.を担当。

【X】@ofurono_sen
【Instagram】guran_g
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