樹の恵本舗 株式会社 中村 樹の恵本舗 株式会社 中村
ONLINE SHOP
MENU CLOSE
1話イラストB

こんな時間にかけてる電話 第6回

23時54分。この世界の何処かから聞こえる、誰かと誰かの真夜中の通話劇。

クレカを無くした人と、対応するテレオペ

「お待たせしました、オペレーターの佐々木が承ります」
「あ、もしもし」
「はい、どうされましたか?」
「あ、クレカを、紛失してしまいまして」
「ご連絡ありがとうございます。最初に、お名前と生年月日をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「あ、えっと、名前が、こうえんじ もりたか、です」
「……漢字を、教えていただけますでしょうか」
「はい。こうえんじは、駅名の、高円寺です」
「はい。下の名前もよろしいでしょうか」
「もりたかは、最高到達点の最高で、もりたか、です」
「駅名の高円寺に、最高と書いて、もりたか、高円寺最高さま、ですね」
「はい、すみません、変な名前で」
「ブフ」
「今笑いました?」
「いえ、失礼しました。では、生年月日をお願いいたします」
「はい。1998年の」
「はい」
「11月28日生まれです」
「はい、ありがとうございます」
「はい。あの、今日が、誕生日で」
「あっ、そうですね。おめでとうございます」
「そうなんです。でも、不運で」
「ブフ」
「今笑いました?」
「いえ! このまま少々、お待ちくださいね」
「あ、はい」
「はい、ご本人確認ができましたので、手続きを進めてまいります。」
「はい」
「直近で、カードはご利用になりましたでしょうか?」
「ああ、えっと、はい」
「いつ頃、どのお店か、覚えておりますか?」
「えっと、赤羽の居酒屋で、昨日です」
「それ以降は、ご利用されていませんか?」
「はい、たぶん」
「ありがとうございます。今のところ、不正利用はされていないようですので、このまま利用停止の処理に進んでもよろしいでしょうか?」
「はい」
「ありがとうございます。一度利用停止してしまうと、カードの再発行には二、三週間かかる可能性がございますが、よろしいですか?」
「はい、大丈夫です」
「ありがとうございます。ちなみにですが、紛失に気付かれたのは、本日でしょうか?」
「あ、はい、ついさっきです」
「外出先でなくされたか、ご自宅でなくされたか、お分かりですか?」
「わからないですけど、気付いたのは家です」
「財布ごと失くされたか、カードだけ紛失されたか、教えていただくことは可能ですか?」
「あ、カードだけです」
「財布はお持ちなんですね」
「はい、そうです」
「本日は、どこかに外出されましたでしょうか?」
「え、あー、コンビニだけ」
「その時点でカードを持っていたかどうか、覚えていらっしゃいますか?」
「いやー、わからないです。さっきネットで買い物をしようとして、クレカがないことに気付いたので」
「では、昨日、居酒屋で利用されたのが最後の記憶となる、ということでよろしいでしょうか」
「はい、大丈夫です」
「ありがとうございます。えー、大変、不躾な質問になってしまうのですが」
「はい」
「お客様、昨夜は、胸ポケット付きのネルシャツをお召しになられていませんでしたか?」
「え? いや、え、なんでですか?」
「もしも違っておりましたら、申し訳ありません」
「いや、合ってます。着てました」
「あ、左様でございますか。なんも変わんないな」
「は?」
「では、そちらのポケットに、カードが入っていませんでしょうか」
「え、ちょっと待って。一旦、見てきます」
「はい、お待ちしておりますー」
「……」
「……」
「……もしもし!」
「はい、いかがでしたでしょうか」
「ありました! ありました! 本当にあった!」
「あ、ございましたか〜。よかったです〜」
「えどうしてわかったんですか? マジですごいんですけど、え、カメラとか付いてます?」
「いや前にも同じことしてたし」
「え?」
「あんたが赤羽で、べろべろに酔っ払ってクレカで払って、そのままカードをネルシャツの胸ポケに入れて、次の日の朝になって『カードがない、カードがない』ってテンパってたの、前と全く同じっつってんの」
「え、待って。え……誰ですか?」
「千枝ですけど」
「え……?」
「元恋人の声もわかんないわけ、あんた」
「……え、千枝って、佐々木千枝? ほんとに?」
「いや、そうですけど」
「いや、え、ごめん、マジで? そんなことある?」
「それ、こっちのセリフだよ。なんで、たまたま対応した客が、変な名前の元カレで、しかも誕生日当日で、前と全く同じクレカのなくしかたしてんのよ」
「いや、変な名前って」
「高円寺最高!じゃないんだよ。なんなんだよ」
「それずっと思ってたの? てか、え、待って、本当に千枝なの? すごい、偶然すぎじゃない?」
「いやこっちが驚いてるから。マジで何やってんの」
「いや、本当になくして、慌てちゃって」
「てゆうかまだあのネルシャツ着てんのかよって本当にびっくりっていうか、がっかりだよ」
「なんでがっかりなの?」
「別れて15年も経ってるのにまだ元カレがネルシャツ着て赤羽でべろべろに酔っ払ってクレカなくしてることと、15年も経ってるのにまだあんたのことガッツリ覚えてた自分にだよ!」
「ちょ、そんな怒らないでよ。これ録音してるって言ってなかった?」
「言ったよ!きっともうクビだよこんなの! さっきから上司がこっち見て爆笑してんだから!」
「ウケる。ちょーダメじゃん何やってんのほんと」
「だったら高円寺最高とかいう名前やめてよ本当に! 15年経っても全然覚えてられちゃうじゃんその名前!」
「それはもう俺の親に言ってよ。てか、クレカありがとねー。見つかってマジでよかったわ」
「いやもう利用停止したから。それゴミだから。使えないから」
「え!? 使えないのこれ!?」
「うん、もう止めたもん」
「じゃあなんで見つけたわけ!? 意味ないじゃん!」
「いや試しに言ってみたら本当に当たってびっくりしただけ。マジで変わってないわーって」
「はあ!? ありえないし! これどうすればいいわけ!?」
「……」
「もしもし!?」
「……では、再発行のお手続きについて、このままご説明させていただきますね」
「あテレオペに戻った。こわ」

次の誰かの23時54分へ続く

Product

ライター紹介

カツセマサヒコ
1986年東京生まれ。2014年よりライターとして活動を開始。2020年『明け方の若者たち』(幻冬舎)で小説家デビュー。同作は累計14万部を超える話題作となり、翌年に映画化。2作目の『夜行秘密』(双葉社)も、ロックバンド indigo la Endとのコラボレーション小説として大きな反響を呼んだ。他の活動に、雑誌連載やラジオ『NIGHT DIVER』(TOKYO FM 毎週木曜28:00~)のパーソナリティなどがある。

【Instagram】:katsuse_m
【X】:@katsuse_m
こいけぐらんじ
画家、イラストレーター、音楽家
愛知県立芸術大学油画専攻卒業。2010年頃から漫画の制作を始め、「うんこドリル」シリーズ(文響社)のイラストや、OGRE YOU ASSHOLEのアニメーションによるCM制作など、活動の場を広げている。また、バンド「シラオカ」ではVo./Gt.を担当。

【X】@ofurono_sen
【Instagram】guran_g
Back