
ちょっと気楽になった夜
お悩み相談の痛快なアドバイスが人気。
人生の格言で多くの人の心を動かすDJあおいが
あなたの夜をちょっと気楽にします。
青春の香りは安らぎの香り
私が不眠で悩んでいるときに、友人がアドバイスしてくれたんですよ。
『そういうときはアロマがいいんだよ。嗅覚って五感の中でも特別で、直接結果にアクセスできる感覚なんだって。カモミールとかラベンダーがお勧めかな。』
と、いつか私がその子に教えてあげた情報が、そっくりそのまま返ってきたのです。
『それ、私が教えてあげたやつじゃん』と、喉まで出掛かりましたが、善意100パーセントの顔をされるとツッコみを入れるのも申し訳なく、『お、おう…』と戸惑いながらも有り難くアドバイスを頂戴したわけですが、よくよく考えてみると当時の私に欠けていた視点でもあったため、帰り道の雑貨店でカモミールのアロマを買って早速試してみたんです。
『効果覿面!』を期待していたのですが、正直効果があるのかどうかもわからない『なんかいい香りがするのはわかる』という程度の微妙な結果に終わり、リピート買いをするまでには至らなかったんですね。
そして月日は流れ、私は相変わらず不眠の症状は処方箋の睡眠導入剤に頼っていたのですが、とある初夏の夜、我が家の夏の風物詩である無臭の蚊取りリキッドが切れてしまい、またエアコンの冷風が苦手な体質であったため、窓を開けていたことから蚊の侵入を許してしまったんですね。
ただでさえ眠るのが下手くそな体質なのに、耳元で蚊の羽ばたく不協和音なんて耐えられるわけがないじゃないですか。
そんなの丸腰で敵地に乗り込む歩兵みたいなものじゃないですか。
もう居ても立っても居られなくて、でもドラッグストアはもう閉まっている時間だし、ネットで購入しても最速で翌日着だし、仕方がないのでダメ元でコンビニへ駆け込んだのですが、案の定無臭タイプの蚊取りリキッドは置いていなくて、昔懐かしき『蚊取り線香』しかなかったのです。
『ないよりマシか…』という折衷案で蚊取り線香を買って帰ったのですけども、その蚊取り線香に火をつけた瞬間ですね、あの独特の香りが、小学生の頃の思い出を脳内で鮮明に再現したのです。
水泳の授業の後、校舎の窓から流れこんでくる心地良い風と、子守唄のような国語の授業に、ついウトウトとしてしまうあの感覚。
夏祭りで千円札一枚を握り締め、友達と一緒に食べた屋台のフランクフルトやかき氷の味
この世にある全ての自由を詰め込んだようなあの夏休みの高揚感。
それ等の記憶がたかだか蚊取り線香の香りひとつで鮮明に再現されるとは、正直驚きました。
『嗅覚が直接結果にアクセスする』という情報は知っていましたが、体感したのはこれが初めて。
まさかここまで効果があるとは思っていませんでした。
もちろん、その夜はお薬に頼らずにぐっすり眠れましたよ(蚊には刺されましたが)
カモミールやラベンダーも一定の効果があるのかもしれませんが、もっと個々のパーソナルに基づいた香りの方が効果的なのかもしれません。
『チョークと埃が混じった粉っぽい香り』とか『経年劣化した鉄筋コンクリートの校舎の香り』とか、『プールの塩素の香り』とか、ノスタルジー効果のある青春に基づくアロマがあればいいんですけどね。
流石にそんなニッチな商品を開発してくれるところはないでしょうから、代替として、若かりし頃に愛用していた香水とか、純真無垢な子供の頃によく食べていた駄菓子とか、HBの鉛筆とか、ノスタルジーを発動させてくれる『匂いのコレクション』はいくつか持っていた方がいいのかもしれませんね。
