ちょっと気楽になった夜
お悩み相談の痛快なアドバイスが人気。
人生の格言で多くの人の心を動かすDJあおいが
あなたの夜をちょっと気楽にします。
逃げ回る人生の行き着く先にも幸せはある
今の小学校の給食事情は、アレルギーの件もあって『お残し』も一貫して寛容になっているのですけども、私の世代はそこまで一貫性がなく、担任の先生によって大きく方針が異なっていたように思います。
隣のクラスは『お残し』にそれほどうるさくなく、お互いの合意があれば譲渡も自由だったのに対して、私のクラスでは担任の先生がバキバキの昭和脳で、『お残し』は一切認められず、全て食べ終わるまで席を立ってはいけないという鋼鉄の掟がありました。
私は幸い食べ物の好き嫌いがなくそれほど苦労はしませんでしたが、午後の授業になってもトマトやブロッコリーと睨めっこをしている生徒が後を絶ちませんでした。
私の幼馴染であるA君もそのひとりで、給食の献立表を見てはため息をついている姿を何度も見ていますし、苦手なメニューの日には学校を休んだことも何度かありました。
『あと何年給食と付き合わなければならないのだろう…』と途方に暮れていたA君でしたが、ある日私が『どうやら私立の中学には給食がなく、購買や食堂で自分の好きなものを食べられるらしい』と話をしたところ、目を爛々と輝かせて『私立の中学にオレは行く!』と海賊王宣言のように決意を固めてみせました。
しかしその学校は頭のよろしい子しか入れない狭き門であり、成績が中の下であったA君が入れるとは私は思っていませんでした。
ところがA君の『給食嫌いパワー』は凄まじく、みるみるうちに成績は中の下から上の下へ、そしてお受験前には上の上まで上り詰めたのです。
見事難関校の受験に合格し、夢のノー給食スクールライフを満喫していたA君でしたが、彼にはもうひとつの悩みの種がありました。
彼の実家は地元で小さな建設業を営んでおり、このままいけば一人息子であるA君が後継になる手筈で、彼の両親もそれを望んでいたようです。
しかしA君はそれがイヤで堪らなく、その定められた人生をどうにかして壊そうと頭を抱えていました。
そこでA君は医者になることを決意します。
『医者という名目なら親も反対するはずがない』という安直で不純な動機でしたが、結果的に彼は医学の道に進むことになりました。
そして研修医を経て今は都内の総合病院で立派に医者として日夜従事しています。
『給食が嫌い』という理由で私立の学校に行き、『家業を継ぎたくない』という理由で医者になり、彼の人生は終始逃げ回っているように思えますが、結果論的に言えば幸せそうなんですよね。
『やりたいこと』ってコロコロと移ろいやすくて、夢や希望も妥協が酷かったりするじゃないですか。
そしてやりたいことも夢や希望も見失って途方に暮れることも人生ではよくあることです。
しかし『こうはなりたくない』というイメージって終始一貫していると思うんですよね。
その『こうはなりたくない』というネガティブなイメージを推進力に変換できたら、A君のような運命を捻じ曲げる凄まじいパワーが生まれると思うんです。
『こうなりたい』という前向きなイメージよりも、『こうはなりたくない』というネガティブなイメージの方が人生を一変する力になり得るんじゃないでしょうか。
夢や希望ばかりが持て囃されているご時世ですが、本当は『なりたくない自分』を大切にしなければならないような気がしてなりません。
何が前向きで何が後ろ向きなのかはわかりませんが、進んだ先に幸せがあればそれが全て、人生なんて所詮結果論でしかありませんからね。
全力で逃げることもまた、結果的に前向きなことになり得るのですよ。