ちょっと気楽になった夜
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人生の格言で多くの人の心を動かすDJあおいが
あなたの夜をちょっと気楽にします。
『お馴染み』にまみれる夜
10代後半から20代半ばくらいまでは、『新しいもの』を追い続けていたように記憶しています。
洋服は新作こそが正義であり、お気に入りのアーティストの新譜を貪るように聴いて、常に新しい情報をインプットできるように高感度のアンテナを立て、時代の最先端にいることをアイデンティティとしていました。
古いものは古いという理由だけで拒絶反応を起こしていましたし、『ダサい』とすら感じていたように思います。
『新しい方がいいに決まっている』という盲信でしょうか、最先端という位置からこぼれ落ちないように必死で新しいものに食らい付いていました。
でも、当たり前のことなのですが、時代って止まってはくれないんですよね。
やっと追いついたかと思えば、また突き放されて、延々と果てしなくゴールラインが逃げていくんです。
どこまで走ってもゴールテープを切れない無限マラソンをしているようで、際限なく疲労が蓄積され、気がつけばいつもイライラしている状態。
相対的に優位な立場になるために『余裕のあるフリ』はしていましたけど、本当の意味での『余裕』なんてものは、貯金残高に等しくすでに底を着いていたように記憶しています。
『三十路』という人生のひとつの節目がぼんやりと見え始めてきた頃でしょうか、もう新しいものを追い続けることに心底疲れ果てて、『最先端レース』からリタイヤしたんですよね。
洋服は『新作』ではなく、なるべく長く着ることができる時代に流されないような普遍的デザインを好むようになり、音楽も今までにストックした『愛蔵盤』を決して飽きないように大切にグルグルと繰り返し聴くだけ、ネットフリックスを観るときも今までに観たことのないものはなるべく避け、自分なりの殿堂入りとなった作品をリピート、部屋着なんてもう着古したジャージがマスト、Tシャツなんて首周りがヨレヨレになってはじめて一軍に昇格するくらい。
飲食だってもうあまり冒険はしない、いつもと同じお馴染みのビールとお馴染みのおつまみで心を潤している。
とくに日が暮れてから就寝するまでの時間は意識的に『新しいもの』を避け、挑戦も冒険もしないように心掛けるようになりました。
時代の最先端を突っ走るキラキラ星人から見れば、私の生活はきっと『ダサい』のでしょう。
でも、『お馴染み』にまみれていると安心するんですね。
昔の写真を眺めているとノスタルジーで脳から気持ちいい汁が出て来るし、幾度となく読み返したお気に入りの本を読んでいるといい感じに眠気に襲われるし、何より『お馴染み』は決して裏切ることはありませんから、そうやって私は心身の緊張をほぐすことを日常としています。
まぁ、べつの角度から客観してみると『こうやって人は時代に置き去りにされ、おじさんやおばさんになっていくのだろうな』とも思えますが、加齢が怖くて人間なんてやってはいられないですから、それはそれで寛容に受け入れるべきだとも思っていますよ。
私はキラキラと輝くよりも、ニコニコとしていたいですからね。