散歩 this way 2 -01-
得難い世界観で溢れる音と歌詞が、音楽ファンから注目を集めているシンガーソングライター/詩人の柴田聡子が綴るエッセイ。
テーマは趣味であるという「散歩」。本人が実際に撮影した写真とともにお楽しみください。
「花散歩」
つつじの季節が過ぎ去って、あじさいがぐんぐん来ている。散歩道のそこかしこであじさいが始まっている。花が始まる前の葉の雰囲気、ブレイク前夜のポップスターを見ているような輝きがある。これは……来る!と思わせる何かがある。葉脈がはっきりしていてふちがギザギザで格好いいしな。
私はあじさいの真花(この名前をあらためてすごいと思う)がつぼみの時期のファン。これがほんっとかわいいんだよな〜!じっくり眺めてしまう。さまざまな方向を向きながらひしめきあってぽつぽつぎゅうぎゅうしている様がたまらない!つまんでみたい!つるんとしていて、ぶどうの皮のような乾いた質感に歯を当ててみたい!小さくてつぶれそうでこわい!ああ、かわいいな。にじむようなランダムなグラデーション。あっという間に色づいて朽ちていくんだろうな。さみしい。そして次の花がやってくる。唯一センチメンタルに浸りながら眺めたくなる対象、花とその色。
つつじには毎年、ギャッ!と驚く。あの鮮やかな濃い赤紫色は特にびっくりする。よくこんな色が生まれたものだと足を止めて口を開けて眺める。光を集めすぎて、蛍光色を見ているかのように目がチカチカしてくる。花の曲線の張りに負けない葉の迫り来る力強さ。さまざまな方向で圧倒してくる系のスター感。猛烈に吹きまくっているトランペット感がある。金物系のオーラがある。しかしそっと触れてみるとやはりやわらかいんだからキュンとする。
それに比べてアネモネは……なんて繊細な茎仕草。日に日に増すつぼみの重みに何度か耐えかねそうになりながらも上に伸びて結果そうなったんですか!?と口を押さえてキャーと高い声を出す。そのあてどない曲線、かわいすぎて言葉がない。ひらいたがくの下方にちょこんとひらりとふわふわとついている苞葉の複雑な様子、ほんとうの自由のなかにある羽根のよう。そっと握手してみたい。苞葉は「ほうよう」と読むから「抱擁」を思い出しあたたかい気持ちになる。あじさいやつつじのような「木」や「根」をつよく感じる花のすがたとはまたひとあじちがう、そのうちどこかへ行ってしまうのではないかと想像したくなる様子に胸打たれてしまう。
すみれの花の香りにも自然と引き寄せられる。肺いっぱいに吸い込んでハァ〜と吐き出しうっとりする。早い夏でアスファルトが焼ける香り、やや湿り気を帯びはじめた空気の香りと織りなすマリアージュ、清々しい。すみれは匂いがつよいものから枯れていく気がする。最後まで残った花はもう香気を発していない感じがする。しかし枯れる時の芳香があり、それがすこし腐った香りで、もうどうしたらいいんだというほどの心の動揺に感動。
そんな風に季節ごとに花に気を取られながら歩くなかで最も待ち望んでいる花、というかその兆しは冬の椿。あのかっちりとしていてまんまるなつぼみが毎年の楽しみ。見つけるたびにちょっと失礼して触らせてもらう。すべすべした手の届く幸福。まっしろなつぼみは、丸くなって眠っているシマエナガかな?と思う愛らしさ。かたいからそのギャップに驚く。あの球体の中に無限の空間とそこを満たす無限の花びらを感じる。そして花開くとそのほとんどがこの世の中に霧散して、消えて無くなって、ただ数枚が残りひととき咲き誇るばかりなのにもえも言われぬ魅力を感じる。そして花びらの端から茶色く朽ちてぽろりと落ちるなんて、もう気持ちをこらえることができない!告白させてください!
夜に見る薔薇は格別。街灯や月、ちいさな光が静かに集まってきて発光している。どこかの薔薇園に、だれかが夜更けに忍び込む映画をいつか観てみたい。



