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真魚 八重子「映画でくつろぐ夜」

「映画でくつろぐ夜。」 第115夜

知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。

「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」

自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。

■■本日の作品■■
『PLAN 75』(2022年)
『君がくれたグッドライフ』(2014年)

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

安楽死を巡る問題

高齢化と健康寿命の落差によって、安楽死が話題にのぼることが増えている。これは本当に難しくて、迂闊なことは言えない問題だ。安楽死とは異なるけれども、わたしの母が老人ホームに入った時、最初に大量の契約書の中に「脳死と判断された場合は死とみなしますか」という問いに、わたしはイエスと答えたが、もう一人の責任者だった甥はノーと答え、その場では結局すり合わせができずに保留となった。自分の家族にまつわることですらすでに、齟齬が出てしまっている。

当然映画でも安楽死を巡る映画が増えてきている。古くは『ソイレント・グリーン』というブラックなSF映画の名作もあるので、一度鑑賞をお勧めしたい。近年の作品では、『92歳のパリジェンヌ』が、リオネル・ジョスパン元フランス首相の母をモデルに、娘で作家のノエル・シャトレが綴った小説『最期の教え』を原案にしている。92歳の誕生日を迎えたマドレーヌは、誕生日パーティーで安楽死を計画していることを打ち明ける。まだまだ元気だが、彼女自身が作っていた「一人でできなくなったリスト」があり、それが増えたことで決心をするのだ。当然子どもたちは動揺し反対するが、気丈な女性であるマドレーヌは自分の意思を貫く。

フランソワ・オゾン監督の『すべてうまくいきますように』は85歳の男性アンドレが、脳卒中で倒れ身体の自由がきかなくなる。彼はその現実を悲観し安楽死を望むようになり、娘のエマニュエル(ソフィー・マルソー)や次女のパスカル(ジェラルディン・ペラス)の説得にも応じない。頑固でわがままな父親を説き伏せるのは無理だと悟った姉妹は、不本意だが父の安楽死に協力することになる。フランス国内にも安楽死制度はあるのだが、アンドレの場合は条件を満たしていないため、エマニュエルたちは弁護士の力を借りて、厳しい条件の下スイスでの安楽死を進めることになる。こんな映画だが、笑いも含んでいて軽いテイストで観られるのが不思議だ。

2月6日から公開の『両親(ふたり)が決めたこと』はさらに一風変わっていて、いま欧州で増えてきている夫婦同時安楽死を描いている。別名デュオ死とも呼ばれている。もはや患者が終末期に入った場合、その健康なパートナーも同時に安楽死を選べるというものだ。年老いてから愛した人が亡くなってしまった場合、その後の孤独が耐えられない人にとって一種の心中が、条件下によってはスイスでは許されている。

日本映画では1月23日から高橋伴明監督の『安楽死特区』が公開になっている。舞台は「安楽死法案」が可決された近未来の日本。しかしまだ賛否は割れて物議を醸している。安楽死に反対しているパーキンソン病を患うラッパーの章太郎は、パートナーでジャーナリストの歩とともに、内部調査のため施設へと入居する。本作はかなり医者の立場にも寄り添った作品になっている。 日本ではもちろんまだまだ先の話だろうと思う。認知症では安楽死は適用されないことを理解していない人もいるだろう。安楽死が可能なのは、あくまで当人の意識が明晰で、意志決定が明らかにできる場合のみだ。その辺りもすり合わせを行った法制度にしないと、犯罪につながりかねない。まあ、こんなことを考えるのは、今の日本においてはSFと変わらないけれども。

<オススメの作品>
『PLAN 75』(2022年)

『PLAN 75』

監督:早川千絵
出演者:倍賞千恵子/角谷ミチ/磯村勇斗/岡部ヒロム/たかお鷹/河合優実/成宮瑶子/ステファニー・アリアン

早川千絵監督の長編デビュー作。高齢化問題の解決策として、75歳以上の高齢者に安楽死する権利(通称・プラン75)が認められた架空の日本。78歳の健康な角谷ミチ(倍賞千恵子)が、仕事や友人を徐々に失い、経済的にも孤立していく細かな描写が行き届いている。まだ現在の日本らしく、安楽死の施行に対して逡巡のある物語になっている。

『君がくれたグッドライフ』(2014年)

『君がくれたグッドライフ』

監督:クリスティアン・チューベルト
出演者:フロリアン・ダーヴィト・フィッツ/ユルゲン・フォーゲル/ミリアム・シュタイン/ハンネローレ・エルスナー

ハンネスと妻キキ、そして昔からの仲間たちは毎年サイクリング旅行に出かける。今年ハンネスが決めた行き先はベルギー。じつは彼は筋萎縮性側索硬化症(ALS)で余命わずかであり、尊厳死が法的に認められているベルギーで死を迎えると決めていたのだった。知らされていなかった友人たちの、繊細な動揺や悲しみなど感情の機微が描かれている。

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

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ライター紹介

真魚 八重子
映画ライター
映画評論家。朝日新聞やぴあ、『週刊文春CINEMA!』などで映画に関する原稿を中心に執筆。
著書に『映画系女子がゆく!』(青弓社)、『血とエロスはいとこ同士 エモーショナル・ムーヴィ宣言』(Pヴァイン)等がある。2022年11月2日には初エッセイ『心の壊し方日記』(左右社)が発売。
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