こんな時間にかけてる電話 第8回
23時54分。この世界の何処かから聞こえる、誰かと誰かの真夜中の通話劇。
終電を逃した人と、お風呂上がりの人
「あ、もしもしー」
「はい、もしもし」
「あ、起きてたー?」
「うん、お風呂入ってたぁ」
「あ、良かったー。じゃあ家? だよね?」
「うん、そだけど。どうしたの?」
「あのさー、いま新宿いんだけどね」
「うん」
「終電逃しちゃった」
「うわー、出たー……」
「いや、出たーじゃなくて。ほんとに」
「時間、早くない? まだあるんじゃないの?」
「ううん。うち、千葉だから」
「あーそっか。千葉だっけ」
「そうそうー。間に合わなくてさー」
「えー、まじかー……」
「うんー、だめ?」
「いや、チカさ。前回そう言って、四日とか入り浸ったじゃん」
「いや! あれは連休だったからさあ」
「いやでもさー」
「お願い、今日は始発で帰るから。なんなら、それより早くに出てもだいじょぶ!」
「いや、そこはいいんだけど。えー? てか、アレでしょ?」
「何?」
「どうせ男持ち帰ろうとして、失敗したやつでしょ?」
「いや、ユキさ、それは言い方が悪いじゃん。私が遊び人みたいじゃん」
「言い方の問題ってことは、事実ではあるってことじゃん」
「棘ある。しかも失敗とかじゃなくて、明日早いって言われただけだから」
「それ失敗って言うんだよ」
「うるさいな」
「しかもその時点で、自分の終電はなかったんでしょ?」
「なかった。あっはっはっは」
「笑えてないから。背水の陣で挑んで負けるなよぉ」
「言われなくても反省してるし、こっちも落ち込んでるんだから慰めてよ」
「水に浸かりきってから連絡してくるのがうちってのがさあ」
「ごめんって〜。こんな情けないところ見せられるの、ユキくらいしかいないからぁ」
「あ、弱いところ見せれば愛されるみたいなの、男にしか通じないからやめな?」
「キビシ〜、実に手厳しい」
「てかうちらもう33だよ? もうその技、とっくに使えなくなってんじゃないの?」
「いや、男にはまだ意外といける。年上の女が弱くなるところ、好まれがち」
「さっそく2026年ワーストワンを決めそうなトリビアが出たね」
「さっきから失礼すぎじゃない?」
「もういい加減、そういう遊び方はやめなよって言ってんのよ」
「あ、そういうこと言うんだ? 価値観古くない? いくつになっても青春はしていいんだよ?」
「青春と男漁りはちょっと違うでしょ」
「はあ? それで言ったらユキこそ、アレじゃない?」
「何」
「あの張り込みしたイケメンファミマ店員、その後どうなったのよ」
「うっっわ」
「忘れてたやつだ」
「違う。あなた、人の黒歴史の扉をよくもまあそんなやすやすと」
「えー黒歴史!? あんなおもしろかったのに!?」
「おもしろいのはそっちだけだから。こっち自主的出禁してんだから」
「なんで。いいじゃん。また四日連続でバイトあがりのイケメン尾行しようよ」
「最悪。なんであのとき、あんなに盛り上がっちゃったんだろ」
「ね。テンションおかしかったもんね」
「もうなかったことにしようとしてたのに、完全に思い出してきちゃったじゃん」
「いや、後世に語り継ぐべきだよ。ノリでストーカーごっこすると警察のお世話になるって話すべき」
「今思い返しても恥ずかしすぎて死にそう。反省してる」
「あの店員、まだいるの?」
「いるよ」
「いるの!? うわー意外と図太いな!?」
「いや、本人は気付いてなかったわけだからね? うちらが間抜けなせいで、ただおまわりさんに職質されちゃっただけだからね?」
「あ、そっか。本人は気付いてないのか」
「そうだよ。本人気付いてたら私たち犯罪者だよ」
「いや、気付かれなくても犯罪ギリだったと思うよ」
「なおさらダメじゃん。やっぱ来ないでくれる? 一緒にいると何かやらかしそう」
「いいじゃん青春しようよォ。ボトルがんがん空けようよォ」
「あ、それもあったじゃん。やっぱダメだ」
「え、なに? 何かしたっけ?」
「うわー、思い出しちゃった。怖い。ダメ。ダメだわ」
「なになになに、何したっけ」
「ほら。お酒飲みまくってさ、足りないからって酒屋に買いに行ってさ、大量に買って、そのあと」
「え、覚えてない。なんだっけ」
「お風呂、お風呂」
「え? あ! 浴槽にお酒全部入れて一緒に入ったやつ!?」
「それ! 最悪! まじで最悪! 匂い消えなかったから!」
「うっわ懐かしい! あったね! あったね!」
「え、あれ、何年前なんだろ」
「わかんない。え、もう10年前とかなんじゃない?」
「ああ、そっか、23とかか。もう社会人にはなってたもんね」
「てかユキ、10年間同じマンションなのすごいね?」
「あー、うん。確かに。一番変わってないのはここだわ」
「いろいろやったよね? わざと大量にシチュー作って、イケメンのお隣さんに持っていって断られたりね?」
「しかもよく見たら意外とイケメンじゃなかったっていうね」
「そうだったそうだった! イケメンじゃないのに断られたとかね、最悪すぎるんだけど。ほんと笑える」
「なつかしいなあ。若かったねえ」
「いや、まだやるから。更新するから」
「ねえ、本当になんでそんな元気なのよ」
「だって今日絶対にお泊まりできると思ってたんだもん」
「そうだった。失敗したんだった。で、今どのあたりにいるの?」
「ん、もうすぐ、例のファミマ見える」
「ちょ、はや! 最初から来る気まんまんじゃん!」
「えへへへ。あ、部屋片付けるのとか、一緒にやるからいいよー」
「そういう問題じゃないから! ちょっと、とりあえず髪乾かしてくる!」
「はーい、イケメン店員いるか確認してから向かうねー」
「それ本当にしなくていいから!」
次の誰かの23時54分へ続く



