「映画でくつろぐ夜。」 第112夜
知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。
「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」
自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。
■■本日の作品■■
『魅せられて』(1949年)
『忘れじの面影』(1948年)
※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。
消し去られる子ども メロドラマの不文律
今回のお話はメロドラマの名作映画のオチに触れているので、チラッとタイトルを観て未見ならば、先に映画を観てほしい。全部素晴らしい作品なので、絶対に得しかない鑑賞経験になることを請け負う。
ダグラス・サークはメロドラマの巨匠として知られる監督だ。『風と共に散る』(56年)は、石油王であるハドリー家の会社で働くミッチが主人公。彼はハドリー家の御曹司カイルと幼なじみだ。だがカイルは放蕩者でアルコールに溺れている。ミッチは内心、カイルの新妻ルーシーに思いを寄せており、三人の関係は息苦しいものになっていく。そしていつまでもルーシーに妊娠の兆しが見えない原因が自分にあると知るカイル。だがそれは可能性が低いという程度であったのに、ルーシーがめでたく懐妊すると、カイルはルーシーの浮気を疑い自暴自棄になる。
カイルが荒れ狂うシーンでは強風が吹き荒れ、屋敷の中にまで大量の落ち葉が舞い込む大胆な演出には息を飲む。カイルは酒を飲んで泥酔し、ルーシーに暴力を振るって流産させてしまう。それによって一波乱あるが、結局ミッチとルーシーは結ばれることになる。
残酷だが、彼らが結婚に至るためには、流産が無意識に必要とされる。ルーシーのお腹にカイルの子どもがいたままでは、観客の我々にとって飲み込みづらい違和感となるのだ。他の男の子どもを宿したままでは障壁となり、スムーズな再婚に至らないメロドラマの律が存在する。
サークの『翼に賭ける命』(57年)も同様の三角関係を描く。飛行機ショーに命を賭けるロジャーと、パラシュートの曲芸師であるその妻ラヴァーン、彼らの取材をすることになる記者バーンの話である。バーンとラヴァーンは次第に惹かれ合うものが生まれていく。しかしここでも幼い息子の存在が、彼らの運命に影響を及ぼす。彼らの恋が叶わないのは、ロジャーの息子がある程度大きいから、息子に父を忘れさせるのが酷なこととなるためだ。
マックス・オフュルス監督も流麗なメロドラマを撮る監督だ。『魅せられて』(49年)ではエゴイストの富豪と愛のない結婚をしてしまった女性が、豪華な屋敷を飛び出し病院の看護師として自活するうちに、医師と惹かれ合うようになる。だが彼女もわずかな結婚生活の中で妊娠してしまう。しかし最後には流産をし、結婚を終わらせることができて医師と結ばれる。ここでもやはり、他の男の子どもを宿していない女性へと変貌を遂げたから、結婚に至ることができる。
同じオフュルス監督の『忘れじの面影』(48年)は、初恋から一途に一人の男性を愛し続けた女性の物語である。相手の男性はプレイボーイで大勢の女性と浮名を流している。彼女も一晩だけ彼に見染められて関係を持つ。それは夢のように幸せな時間だったが、翌日仕事で遠方に出発した彼は「帰ってくる」と言ったものの、その約束は守られることはない。そして彼女は妊娠してしまい、シングルマザーとなって彼の息子を育てるのだ。
別れてからの長い年月の間に彼女は結婚もし、裕福な生活を送っていた。しかし彼女は男と再会する。男は彼女のことを覚えていなかったが、改めて彼女を見染めて熱烈に誘う。今は結婚している彼女だが、彼への想いは断ち難かった。だが夫からは断固として二人の関係は阻止すると宣言されてしまう。このトラブルの間、彼女は息子をしばらく旅に出すことにする。しかしそのために息子が乗った機関車でチフスが発生し、息子を病気で亡くしてしまうことになるのだ。これは人妻の恋に対する懲罰的な物語の枷であろう。そして彼女も罹患し、死の床にある。
無意識の反映としてこのルールは興味深い。子どもが流産すれば関係性が崩れなくて済む。人によっては抵抗もある話題だと思うが、映画的には胎児はまだ人間として人格のない時期だから、観客にも心理的な負荷が少ない。しかしある程度子どもが成長していると、不倫や他の男性との再婚は、破綻や死を呼び寄せてしまう。メロドラマにおける子どもの立場は、婚姻を挟んだ男女の恋愛の罪の意識を反映しているのだ。
<オススメの作品>
『魅せられて』(1949年)
『魅せられて』
監督:マックス・オフュルス
出演者:ジェームズ・メイソン/バーバラ・ベル・ゲデス/ロバート・ライアン/フランク・ファーガソン/ナタリー・シェイファー
エゴイストな資産家が深夜まで仕事で帰宅せず、妻はその間起きて待っていなければならない描写など、身勝手な夫に振り回される妻の不幸がすぐさま理解できる。夫の言い分としては「良い暮らしができるのだから不満などなかろう」というもので、人間的な喜びを解していない。彼女が家を飛び出して看護師として働き始めると、初めて生き甲斐を感じ、人のために生きる医師を尊敬して恋に落ちるのも自然だ。ラストまで夫の気持ち悪さが現代的で古さを感じない作品。
『忘れじの面影』(1948年)
『忘れじの面影』
監督:マックス・オフュルス
出演者:ジョーン・フォンテイン/ルイ・ジュールダン/マディ・クリスチャンズ
主演女優のジョーン・フォンテーンが10代から30代までを違和感なく演じている。手紙を通じて古い過去から物語が始まり、徐々に現在に近づいてくる構成が素晴らしい。男はプレイボーイなので色々な女性と同じことをしているのかもしれないが、彼女にとって彼と過ごした一夜は忘れ難いものとなり、一粒種の息子を大事に一人で育てていくのだ。ラストまで見事にまとまった一作。
※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。


