「映画でくつろぐ夜。」 第111夜
知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。
「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」
自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。
■■本日の作品■■
『サスペリア』(1977年)
『サスペリアPART2』(1975年)
※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。
ジャッロにまつわる色々な連想
11月21日より、『笑む窓のある家 4K修復版』が公開される。1976年にイタリアで制作されたミステリーホラー映画だ。監督はプピ・アバティ。併せて同監督の『ZEDER(ゼダー) 死霊の復活祭』も上映される。2作とも不思議なテイストの作品であり、編集がちゃんとつながっていないようにも観える怪作なので、初見の方はちょっと戸惑うかもしれない。
『笑む窓のある家』は『ミッドサマー』や『ウィッカーマン』と同様に、田舎を舞台にしたフォークホラーである。絵画修復師のステファノが依頼を受けて訪れることになるのは、独特の土地柄のある、狭い町で食堂も一つしかないような所だ。ステファノが手掛けるのは教会のフレスコ画の修復。その絵は「死に際を描く画家」と言われる、最期は狂死したブオノ・レニャーニによる、「聖セバスティアヌスの殉教」を模したフレスコ画だった。聖セバスティアヌスの殉教は本来、矢が刺さった姿を描くが、このフレスコ画は全身にナイフが刺さった異色の絵柄となっている。そしてステファノの周りで謎の死が起こり始める。全体にのんびりしているのか、性急なのかわからない奇妙なカルト作として面白い映画だ。
こういったイタリアのミステリーホラー映画は、ジャッロというジャンル名で呼ばれる。ジャッロはイタリア語で黄色の意味。イタリアの出版社が出版した、黄色い表紙の犯罪ミステリー小説シリーズである、『ジャッロ・モンダドリ』(Giallo Mondadori)が語源と言われている。日本では一時、ジャッロのマニアックな作品もDVD化されていたが、この世界で一番の巨匠といえばダリオ・アルジェント監督になるだろう。
ダリオ・アルジェントは日本では『サスペリア』(77年)がもっとも知られている。美少女が大勢出てくるうえに、建築物やライトの使い方が美しい。ヒロインはジェシカ・ハーパーで、彼女はバレエ学校へ留学しにヨーロッパへ訪れる。そこで若い娘たちの奇怪な死が連続する。冒頭近くで、学校のドアから飛び出してきた少女が「アイリスが3つ、青いのを回すのよ!」と言う、謎めいたセリフも素晴らしい。『サスペリア』は日本でもヒットして、一時はよくテレビでも放映されていたものだった。それを受けて、アルジェントの75年の監督作品『Profondo Rosso』が78年に封切られると、『サスペリアPART2』という邦題になったりした。作られたのは『サスペリア』より前なのに。
個人的には『サスペリアPART2』はとても好きな作品だ。視覚の惑乱を使って、じつは犯行現場の犯人を観客に見せているトリックが見事だった。また、ヒロインを演じたダリア・ニコロディはこの作品でダリオ・アルジェントと恋に落ち、娘のアーシア・アルジェントを授かっている。アーシアは#MeToo運動の時、ハーヴェイ・ワインスタインから性暴力を受けたと告発した女優の一人だ。アーシア自身も映画を監督していて、『スカーレット・ディーバ』(00年)はワインスタインをモデルにした人物も登場する。アーシア自身のストーリーなのか、ツアーに出たバンドマンの恋人を待つうちに情緒不安定になっていく物語が、若い女性らしくて悪くない映画だった。
ダリオ・アルジェントの『サスペリア』は、2018年には『君の名前で僕を呼んで』のルカ・グァダニーノがリメイクもしている。オリジナルとはかなり異なる映画になっていて、些か難解な作りになっていた。最初の予告を観たとき、美術家のアナ・メンディエタのアートを無断引用している点が個人的には引っかかった。案の定アナ・メンディエタの遺産管理財団から提訴を受けて、そのシーンは削除され和解に至っている。
<オススメの作品>
『サスペリア』(1977年)
『サスペリア』
『サスペリア』(1977年)
監督:ダリオ・アルジェント
脚本:ダリオ・アルジェント/ダリア・ニコロディ
出演者:ジェシカ・ハーパー/ステファニア・カッシーニ/フラヴィオ・ブッチ/ミゲル・ボゼ/バーバラ・マグノルフィ
ダリオ・アルジェント監督の代表作。主演のスージーを演じたジェシカ・ハーパーは現在も女優業を続けている。バレエの寄宿学校を舞台にした、次々と謎の死が起こるジャッロだ。ゴブリンによるテーマ曲も耳に残る。最初にスージーが夜、空港に降り立った時のライトからして美しく、嵐のような雨の中をタクシーで移動するオープニングが不安を駆り立てる。スージーが住むことになる部屋の壁紙もモダン。
『サスペリアPART2』(1975年)
『サスペリアPART2』
監督:ダリオ・アルジェント
出演者:デビッド・ヘミングス/ダリア・ニコロディ/マーシャ・メリル/ガブリエル・ラヴィア/エロス・パーニ/クララ・カラマーイ
ローマで開催された欧州超心霊学会。壇上にいたテレパシーの能力を持つヘルガが悲鳴をあげ、会場内に恐ろしい殺人犯がいることを告げる。しかしその後、ヘルガは自宅アパートで何者かに襲われ惨殺されてしまう。悲鳴を聞いて駆けつけたイギリス人ピアニストのマークは、事件の真相を突き止めようとする。マークと行動を共にする記者にダリア・ニコロディ。二人のシーンはラブコメタッチで楽しい。
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