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真魚 八重子「映画でくつろぐ夜」

「映画でくつろぐ夜。」 第110夜

知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。

「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」

自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。

■■本日の作品■■
『ピクニックatハンギング・ロック』(1975年)
『美しき冒険旅行』(1971年)

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

オーストラリアの荒野を舞台にした独特な映画

10月31日から『ロードゲーム』が公開される。1981年の作品だが、日本では劇場未公開だったので、スクリーンでは初のお披露目となる。面白い映画なのに、なぜ公開されなかったのか不思議に思う。

舞台はオーストラリアの荒野。主人公は冷凍の豚肉の荷を積んで走るトラッカーのクイッド(ステイシー・キーチ)だ。相棒はオーストラリアにいる野犬のディンゴ。規則でヒッチハイカーを乗せてはいけないので、クイッドは緑のバンが女の子を拾い、モーテルに宿泊したのをちょっと妬ましげに眺める。しかし翌朝、その運転手が5時半にゴミの収集をチェックしていたことから、クイッドは怪訝に思う。それにラジオでは近隣一帯に出没する連続殺人鬼の報道もしており、クイッドは不吉な妄想に駆られ始める。その緑のバンの運転手も、クイッドに目を付けられたことを意識しているのか、挑発的な運転をしてきたりする。この作品は最後まで面白いので、ぜひオススメしたい。

オーストラリアの映画というのは、なぜかなんとなく共通の雰囲気がある。アメリカやメキシコも同じように砂漠地帯があるが、オーストラリアの荒野は独特な温度の低さを感じる。『ロードゲーム』においてクイッドは行く先々であまり歓迎されないのだが、同様に旅人が翻弄されるオーストラリア映画に『荒野の千鳥足』(71年)がある。

『荒野の千鳥足』の監督は『ランボー』を撮ったテッド・コッチェフ。田舎町に赴任している小学校教師ジョン・グラントは、まだ若いゆえに何もない赴任先に飽き飽きしていた。クリスマス休暇でシドニーに戻るため、乗り換えで通称ヤバという土地を経由することになるが、そこでひたすら酒をふるまわれてずっと酩酊状態になる。ここでは酒を飲むのが男らしさで、食事をとりたいと言うグラントは若造扱いされる。ギャンブルに誘われ、グラントは勝てば今の職場を脱することができると思い、全財産を賭けるがスッてしまい、ヤバの町から出ることすらできなくなってしまう。

そこには同じように都会から来てヤバに住み着いた男(ドナルド・プレザンス)もいる。彼はグラントの理解者か、悪魔のようにヤバに誘いこんでいるのかなんとも判断がつかない。グラントは宿泊先で「カンガルー狩りに行こう」と誘われる。このシーンは残酷で、男性が狩猟を趣味にする「男らしさ」の定義に眉をひそめてしまうが、ここでもグラントは小さなカンガルーしか仕留められず、周りから皮肉な笑いを受けるのがイヤな感じだ。

同じようにオーストラリアの砂漠で彷徨うことになるのが、ニコラス・ローグの名作『美しき冒険旅行』(71年)である。都会に暮らす14歳の姉と6歳の弟はある日父親とともに車でオーストラリアの砂漠へピクニックに出掛けた。しかし父親が発狂し、子供たちに発砲したあと、車にガソリンをかけて焼くとともに自殺した。広大な砂漠に取り残された姉弟は荒野を歩き、切り立った崖を登って生き残るための旅を続ける。しかし水も食糧も尽きてしまったとき、偶然そこにアボリジニの少年が現れ二人を救う。以後、姉弟は言葉の通じない少年に導かれながら一緒に旅を続ける。この映画にもカンガルーを矢で殺すシーンがあって、オーストラリアの男らしさとカンガルー殺しは結びついているのかもしれない。だがアボリジニの少年がカンガルーを捌く際、都会の肉屋での肉の調理シーンがモンタージュで挟まり、同じ行為を我々もしているという痛烈な文明批判ともなっている。全体にオーストラリアの砂漠に生息する特有の生き物のショットが多く、編集で姉弟と動物たちや大自然が交互に映るような、審美主義を追及した作品である。

<オススメの作品>
『ピクニックatハンギング・ロック』(1975年)

『ピクニックatハンギング・ロック』

監督:ピーター・ウィアー
出演者: レイチェル・ロバーツ/アン・ルイーズ・ランバート/ドミニク・ガード/ヘレン・モース/ヴィヴィアン・グレイ/カースティ・チャイルド

舞台は1900年2月14日のオーストラリア。寄宿制女子学校の生徒たちが、近くのハンギング・ロックと呼ばれる岩山へピクニックに出かける。規則正しい学校生活の中では、束の間の息抜きとなる行事だ。しかし岩山では磁気の影響のためなのか、教師たちの時計が12時ちょうどで止まってしまう不思議な現象が起きる。そして3人の少女が岩山の上で忽然と姿を消してしまう。監督はオーストラリア出身のピーター・ウィアー。ハリウッドに渡ってからの『トゥルーマン・ショー』などで知られるが、オーストラリア時代には謎めいた名作が多い。

『美しき冒険旅行』(1971年)

『美しき冒険旅行』

監督:ニコラス・ローグ
出演者:ジェニー・アガター/リュック・ローグ/デイビット・ガルピリル/ジョン・メイロン/ロバート・マクダーラ/

ニコラス・ローグはイギリスの映画監督で、『赤い影』などの作品で知られる。本作はオープニングの都会を表すモンタージュから、せわしない文明への批判が漂っている。砂漠にいる動物はカンガルーやウォンバットは可愛いが、アボリジニの少年は主に爬虫類を狩っていて、腰に死骸を飾りのようにぶら下げている。原題の『Walkabout』は歩き回るという意味もあるが、アボリジニの少年が16歳になると、一人で砂漠をさまよう成人の儀式のことも指している。

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

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ライター紹介

真魚 八重子
映画ライター
映画評論家。朝日新聞やぴあ、『週刊文春CINEMA!』などで映画に関する原稿を中心に執筆。
著書に『映画系女子がゆく!』(青弓社)、『血とエロスはいとこ同士 エモーショナル・ムーヴィ宣言』(Pヴァイン)等がある。2022年11月2日には初エッセイ『心の壊し方日記』(左右社)が発売。
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