「雨の夜にだけ会いましょう」
「定期的に集まろうぜ」と言い出した飲み会は二回目が開催されない。
仕事も遊びの約束も、数週間先の予定を詰められるとなんだか心が重くなる。
「もっと雑で、ちょうどいいこと」を求めて、無責任な願望を言葉にしてみるカツセマサヒコの妄想コラム連載です。
第二十夜 秋の夜風とワンルーム餃子パーティ
秋。理由もなく寂しくなったり人肌恋しくなったりして、でもその孤独感もたまには悪くないかなと思えたりするような、独特な感情に揺れ動く季節。
疲れてはいるけれど、会社と自宅の往復では少し物足りなくて、ああ、なんか、ちょっとしたイベントとかないかなあ。帰り道がほんのりと楽しい気持ちでいられるような、ちょっぴり特別な感じのやつ、ないかなあ。と、曖昧な願望を抱きながら街を歩いていると、不意に頭に思い浮かぶのは、ありそうでなかった青春の1ページっぽいことだったりします。
つまり、友人宅で、餃子パーティがしたい。
「引っ越したん。なんか、祝って」
久しぶりに動いた、グループLINE。「モツ鍋の匠2021」と書かれたグループ名からして、三年前の冬以来の更新でしょうか。
あのときはたしか、当時よく遊んでいたメンバーの一人が「俺の作るモツ鍋は、やがてミシュランから声がかかるレベル」などと豪語したことをきっかけに、男女比3:2とか2:3とか、何でもいいんですけど、とりあえずこう、奇数の男女グループで集まって、鍋をしたんでした。
そのLINEグループが久々に更新されたかと思えば、どうやらモツ鍋の主が、自宅を引っ越したらしいのです。
「え、どこに越したの?」
「てか、一人暮らし? もしかして同棲?」
「うおー、引っ越し祝いやろー」
「焼肉! ジンギスカン! 引っ越したての壁紙に匂いがつくやつやりたい!」
「一人暮らしー。新築です! 匂いつくの絶対にやめろ!」
三年のブランクなど微塵も感じさせないノリでぽんぽんと既読と返事がついて、それだけでちょっぴり心に火が灯ります。
五人全員、グループ内で付き合ってないし、付き合ったこともない。ていうか、このメンバーでいまさら恋愛とかダメだよね(笑)。わかる。ていうか、もう友達としての付き合いが長すぎちゃってそういう対象とかには見れないし(笑)。わかるわかる、それな(笑)。
人生でも一、二を争う香ばしい無駄トークを繰り広げながら、実は結構恋愛スレスレだった夜が一度は二度はあったような男女たちが、まだ新築の匂いがするワンルームに久しぶりに集まることになりました。
「北口出たらピーコックあるから、そこで食材買ってきてー。お酒は多少あります!」
「てか、結局なに作るんだっけ」
「え餃子じゃないの?」
「え、タコパだと思ってた」
「餃子餃子w」
「おけ! 適当に買ってくー。お酒何あんの?」
こういうやりとり、大っっ好き。
知らない街の最寄りのスーパーにて、カゴを乗せたカートを押して回るとき、テーマパークに入ったときと同じような高揚感に包まれます。それも、友達と一緒ってなると、楽しさ数倍です。
「あ、これ好きー」とか「お、これしばらく食べてねえわ」とか言って、どんどん余計なものがカゴに入っていく。その感じもまた、風流。会計のときに「3000円じゃね?」「いや4000いってんじゃない?」「おお〜?」「お、意外と高い!?」みたくなるやつも、全っっっ部すき。
そんなこんなでダラダラと歩いて、ようやく友人の住むアパートへ。もう大人になってずいぶん経つのに、オートロックのエントランスのインターホンの前で部屋番号をプッシュするとき、いつも緊張します。
「はいどうぞー」「はーーい」
わざわざ名乗らずとも自動ドアが開く感じ、すっごく嬉しい。
いよいよ到着した友人のワンルームは、IKEA、ニトリ、無印って感じの、シンプルだけど緊張させない空気があって、落ち着きます。四人も押し寄せたらさすがに狭くなった気がするけれど、みんな人さまんちのベッドには腰掛けない清潔感やマナーを持っていて、最高です。
男女が五人集まったなら、餃子を包むに限る。
ひき肉に、野菜を混ぜて、こねこねて。具ができたなら、包むだけ。こうやって複数人で料理するときって、ワンルームだとキッチンが狭かったりするから、だいたい5人中2人くらいが大活躍して、残り3人のうち2人くらいは片付けに精を出して、あとの1人はマジで食べにきただけみたくなるの、不思議。
でも、餃子を包むときだけは、なんだか図画工作みたいでおもしろいから、5人でやる。
「それ、具、入れすぎじゃない……?」
「え、こんなもんじゃないの?」
「いや、絶対閉じれないでしょw」
「いや、いけるって!」
「ほーん、やってみ? やってみ?w」
「……ほい」
「「「「ダメじゃんwwwwww」」」」
こんな友達、人生で一度もいなかったから、書きながら泣きそう。
餃子を食べ終え、酔い覚ましに、窓を開けます。
ベランダからは、新宿副都心の夜景が見えます。弱めの暖房をかけていた室内の空気が、ふわりと逃げていきます。ワンルームには、酔っ払いながらスマブラをしている友人たちがいます。
「あ、一本ちょーだい」
煙草に火をつけようとしたところで、いち早く負けたドンキーコング使いが、ベランダに出てきて言いました(全て妄想なので、私はこのときロン毛イケメン喫煙者になっています)。
「お、吸うようになったん」
「うん、もらいタバコだけ」
「へー」
「元彼の影響」
「それ、わざわざ言わんでいいよ」
秋の夜風が届きました。煙が静かに空に溶けていき、沈黙がむしろ心地よいくらいでした。
――なんか、むっちゃ、いい感じじゃん。
私は思いました。
――なんか、いい感じになっちゃってる。
友人も思っていました。
((この流れは、なんか、あるやつじゃん))
二人、そこはかとなく期待し始めてしまったところで、大声がしました。
「おい! 全員ガノンドロフでやるぞ!!!!」
顔を真っ赤にした家主が入ってきて、なんかいい感じの空気が、一瞬にして弾け飛んでいきました。
このくらい。このくらい雑でなんだかよくわからない出来事が、来世あたりで起こりますように。