「雨の夜にだけ会いましょう」
「定期的に集まろうぜ」と言い出した飲み会は二回目が開催されない。
仕事も遊びの約束も、数週間先の予定を詰められるとなんだか心が重くなる。
「もっと雑で、ちょうどいいこと」を求めて、無責任な願望を言葉にしてみるカツセマサヒコの妄想コラム連載です。
第十九夜 最高峰の肉まんをめぐる冒険
あれほど夏に飽きたのだから、あとはどんどん涼しくなってほしいと思っていたはずなのに、いざ冷たい空気に包まれてみると、あれ、なんだか、体調があんまり良くない気がする。と、見事なまでに季節の変わり目で体調を崩しがちなこの頃です。
秋とか、体感3分くらいしかなかった。JPOP一曲ぶんの季節を通り過ぎて、街はすぐに冬の準備を始めます。夏が終わったら着よう! と奮発して買ったニットのセーターも、一回しか着られないままタンスの肥やしとなりました。冬なあ、コートが重たいし、朝は起きるのがつらいし、嫌なんだよなあ……。と思わずグチグチ文句垂れてしまいそうですが、
しかし、食。
きりたんぽ鍋、すき焼き、おでん、真夜中のカップラーメン。冬を楽しみにしていたのは、下品なカラーリングのクリスマスツリーを見たいからではなく、その時期にだけ美味しさが100万倍に膨れ上がる最高なお料理たちが、私を待っているからです。
なかでも、肉まん。
わたくし、こう見えて、肉まんが大好きです。「好きな食べ物なんですか?」と聞かれれば迷わず即答。肉まんが好き。油そばもいい勝負をするときがあるんですけど、やはり、肉まんです(ちなみにここで言う「肉まん」は、あんまんやピザまん、角煮まん、抹茶ショコラまんなど、あらゆる「まん」を総称した、広義の意味での「肉まん」のことを指します)
だから、最高峰の肉まんを食べたい。
ふと思い立って、降り立つ中華街。たくさんの観光客と幸せ絶頂カップルによって街は賑わうなか、私はとりあえず、この街で一番でっかい肉まんを探そう! と、アンテナを最大限に張りながらお祭り状態の大通りを歩き始めます。
たーくん「これ、半分こしよ」
みよちゃん「え! たーくん優しい〜!」
たーくん「じゃあ、はいっ。あっ、すげ〜ホクホク〜」
みよちゃん「わ〜ありがと〜! え、じゃあ〜、たーくんがおっきいほうでいいよ(はーと)」
たーくん「え、本当に〜? みよちゃん、ありがと! じゃあ、いただきますっ。おっ、あふっ、あつ、うまっ……!」
みよちゃん「キュンッ(食べるところまで可愛いだなんて、ハンソクっ!)」
テキストだけで全身が痒くなってくるような付き合って二ヶ月の幸せ絶頂アホアホカップルを、ダブルラリアットでブルドーザーのごとく薙ぎ倒しながら、街をぐるぐると徘徊します。
昔はあったはずの店がいつの間にか姿を消していたり、同じ店かと思えば内装が微妙に変化して別の店になっていたりと、中華街も少しずつ時代と共に変化してきているようで、その様子を見ているだけでもなんだか切なくなったり、ワクワクしたりしてしまいます。しかし、二時間近く歩いてもなお、最大級の肉まんには出会えそうにもありません。
おっかしいなあ。吾輩の肉まんアンテナによれば、この辺りにあるんだがなあ。しかし、この道はさっきも通ったよなあ? と思いながら大通りを一本右に曲がってみると、そこにはいよいよ、最後の一組となった幸せ絶頂カップルが仲睦まじく歩いています。
みよちゃん「やだたーくんったら。あたしのこと好きすぎるって〜」
たーくん「ふふ、ボクはこの世界の全てがみよちゃんになればいいって思ってるよ」
みよちゃん「じゃあ、この小籠包も?」
たーくん「ああ、とってもキュートなみよちゃんだ(はーと)」
一か八か、0.2秒の領域展開。
周りの観光客には極力影響のない範囲で、幸せ絶頂カップルを祓います。
すると、どうでしょう。さっきまではシャッターが降りていたはずの目の前の小さな中華店が、突然「新宝島」のイントロみたいな豪華絢爛な音を立てて、お店をオープンさせたではありませんか。
私「あれはまさか、中華街のカップルを一掃させないと出てこない、幻のイースターエッグ肉まん!?」
店のおばあちゃん「そのとおり。よくぞここまで辿り着いたね」
こうして目の前に運ばれてきたのは、ぐりとぐらもびっくりの超巨大肉まん。生地は見るからにもちもちで、半分に切られた断面にはゴロゴロとした美味しそうなお肉がびっしり詰まっています。食欲の秋Over Drive。これぞ私が待ち望んでいた光景です。
店のおばあちゃん「あんたが今世紀最初のお客さんだ。さあ、お味はどうだい?」
私「これはちょっと、もう、筆舌に尽くしがたい、さいこうすぎますね!? もぐもぐもぐうっまー!」
二時間彷徨った末に辿り着いた最大級肉まんですから、これほど美味しいものはありません。お腹を空かせていた私は、ぐりとぐらに習って観光客などに肉まんを振る舞いながら、これをあっという間に完食しました。
店のおばあちゃん「さあ、肉まんを求めて旅する人よ。これで満足できたかい?」
ハリソン私「そうですね。いや、しかし……私は、本当は、もっとプリミティブで、フィジカルで、フェテッシュな肉まんを追い求めていたような気がします」
そう、確かに中華街の肉まんは、美味しい。しかし、どうしてか、今の私は、それだけでは満足できなくなっていたのです。
店のおばあちゃん「だったら、すぐそこの角を右に曲がりな。おまえさんが一番慣れ親しんだ、それでいて究極の肉まんがあるよ」
ハリソン私「究極の肉まん……?」
しかし、角を右に曲がったところで、そこにはコンビニしかないことをハリソンは知っています。いや、まさか。
ハリソン「コンビニの肉まんが、なんだかんだ言って一番美味しいってことですか……?」
そう。最高峰の肉まんを求めて、いくつもの犠牲を生みながら辿り着いた旅の先。答えは最も身近なところで、ずっと加湿され続けていたのです。
店のおばあちゃん「中華街の肉まんも、うまい。コンビニの肉まんも、別のうまさがある。それぞれの良さがあり、最高峰は一つじゃないってことさ」
なんで今さらSMAPみたいなノリで名言のような迷言を残したのか分かりませんが、こうして私の冒険は、結局コンビニの肉まんってうめーよな、という結論に帰ってくることができたのです。
このくらい。このくらい雑でなんだかよくわからない出来事が、来世あたりで起こりますように。