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「なるべく豪華な晩餐を」

たべるときに思ったあんなこと、こんなこと。
生きていくためには食べなきゃいけない。食べるためには生きなきゃいけない。
でもせっかくならいい気分で食べたいよね。食べながら素敵なことに思いを馳せたいよね。
なるべく豪華な晩餐を。
モモコグミカンパニーが綴る、食事をきっかけにはじまる美味しい感じのエッセイです。

ハッピーセットの中身

私は、特別ファーストフードが好物というわけではない。
だから普段、わざわざ「マクドナルドが食べたい!」と思ってお店を調べて行くことは少ない。
ただ、通りすがりに偶然マクドナルドを見つけるといつも入りたくなってしまうのだ。

小学生のころ、通っていたスイミングスクールの近くにマクドナルドがあって、頑張った後のご褒美にと迎えに来た母親とよく寄っていた。その時には、大体ハッピーセットを頼んだ。水泳自体はあまり好きではなかったけど、中身の見えなくなっているオモチャの袋を開ける時のワクワクは今でも覚えている。
大人になってからもマクドナルドで頼むものはあの頃とあまり変わっていない。私は基本、チーズバーガーと炭酸飲料を頼む。
そのメニュー自体が好きというか、自分の口や胃袋のサイズに見合ったものを選んでいる気がする。私はそもそも口があまり大きく開かないので、薄目のハンバーガーがちょうど良い。ただのハンバーガーだとなんだか物足りないから、チーズバーガーを頼む。なぜかマクドナルドで飲むジュースは自販機のものより美味しく感じるし、炭酸飲料のバチバチの喉越しも好きだからそちらも一緒に頼む。
これに加え、サラダかポテトをサイドメニューから選ぶ。
すると、「ハッピーセットのオモチャはつけますか?」と聞かれる。私はそれに対し、衝動的にオモチャをつける選択をとることが多い。
しかし、ハッピーセットにしたのは良いものの、そもそもキャラクターグッズにあまり興味のない私は結局オモチャの中身を開封せずに家に持ち帰り、その後も封を開けないまま放置してしまうことがほとんどだ。
だったら最初からつけなきゃいいのにと思うが、目の前にハッピーになれそうなものを振り翳されたら揺らいでしまうのが人間だ。オモチャをつけても料金も変わらないし。
これは目の前のハッピーにしがみついた結果、そのハッピーがただのお荷物になってしまっていると言えるだろう。 
こんな風にハッピーセットに踊らされてしまう私は、「ハッピー」のベクトルを履き違えている可能性がある。子どもの頃、スイミング帰りに感じた「ハッピー」は大人になった現在の私にはもう通用しない。ハッピーセットの“ハッピー“は子ども、またはそのグッズを求めている人間を対象としたハッピーであり、そのオモチャに興味のない私に向いた言葉ではないのだ。

ハッピーセットに関わらず、この複雑で雑多な社会で目の前の「ハッピー」や過去の「ハッピー」、そして誰かの「ハッピー」に流されてはいないだろうか。
実際、今現在の自分のハッピーを見つけるのは、簡単そうで案外難しい。
例えば音楽は誰かの幸せの一部になっていることが多いと思う。
しかし一口に「音楽が好き」と言っても、
・音楽制作、歌唱、ダンス、鑑賞、カラオケ、合唱、作詞、演奏、音楽から派生した精神や思想……
など、ジャンルも含め人それぞれ好むものは細分化される。

一体音楽の何が好きなのかは、実際そのものに触れてみないとわからない。ダンスを踊ってみたり、人前に立ってみたり、音楽を作ってみないとそれが自分の好きかどうか、幸せにつながるのかどうかは経験してみて始めてわかることだ。
ダンスが好きでもそれを見るのと実際やるのは違うし、歌が好きでも、実際に歌ってみて人と比べたりした結果、苦手になってしまうことだってあるだろう。今は優しい曲が好きでも、何かの拍子に激しい音楽を好むようになるかもしれない。
人の幸せってかなり繊細で流動的なものだ。
だからこそ、能動的に動き、探って自分尺度のものぴったり当てはまるものを時間をかけてでも見つけていくべきなんだろう。
一体、この中に何が入っていたら私は今本当にハッピーになれるのだろうか。
トレーの上に置かれたグレーのビニールに纏われた得体の知れないハッピーなオモチャを見つめながら考えた。

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ライター紹介

モモコグミカンパニー
ICU(国際基督教大学)卒業

大ヒット曲を連発して各メディアで活躍し、2023年6月29日に解散したBiSHのメンバー。
メンバーの中で最も多くの楽曲の作詞を担当。
独自の世界観で圧倒的な支持を集めた。

"物書き"としての才能は作詞だけではなく、
2022年には『御伽の国のみくる』で小説家デビュー。
これまでエッセイ3冊、小説2冊の執筆を行い、
2024年5月20日には自身初の短編小説集「コーヒーと失恋話」を発売。
BiSH解散後は、執筆活動やメディア出演を中心に文化人として活動。

【Twitter】@GUMi_BiSH
【Instagram】@comp.anythinq_
【blog】https://momoko-gules.vercel.app/
【FanClub】https://company-fc.jp/
久野里花子
イラストレーター・グラフィックデザイナー
1993年生まれ 愛知県出身
デザイン事務所を経て、2020年にフリーランス へ転身
書籍の挿絵やエディトリアルデザインを中心に活動中。

【Twitter】@kuno_noco
【Instagram】nocochan_1213
【Tumblr】https://rikakokuno.tumblr.com
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