「なるべく豪華な晩餐を」
たべるときに思ったあんなこと、こんなこと。
生きていくためには食べなきゃいけない。食べるためには生きなきゃいけない。
でもせっかくならいい気分で食べたいよね。食べながら素敵なことに思いを馳せたいよね。
なるべく豪華な晩餐を。
モモコグミカンパニーが綴る、食事をきっかけにはじまる美味しい感じのエッセイです。
〜隣の席のタラコパスタ〜
私は純喫茶が好きで、先月純喫茶の本を出したほどだが、普段は作業をするためにチェーンのカフェに入ることも多い。
純喫茶はどちらかというと閉鎖的でその店ならではのルールがあるところが多いが、チェーンのカフェは多様な人が利用する開かれた空間のため、訪れる客の個々の目的や過ごし方のルールがあるように思う。ちなみに、私がチェーンのカフェを利用する際の個人的流儀はこうだ。
まずは、座席について。端っこの席ももちろんいいが、それ以上に自分が座るべき席の判断材料はある。
私は最初に席から見える景色を確認する。作業することを目的として一人で訪れている場合、キーボードと画面に向き合ってばかりだと途中で疲れがくる。だから、なるべく外の景色が視界に入るところがいい。駅近なら、窓からセカセカと道ゆく人々を観察するのも楽しいし、発想の手助けになってくれることもある。
また、座席の周りの人も重要だ。できれば周りに人がいない方が集中できそうだが、私の場合はせっかく家から出てきたのだから、誰かは近くにいた方がいいという考えだ。その方が作業が捗る気もする。
だけど、誰でもいいわけではない。
ママ友や学生の集まりのマシンガントーク集団の近くは絶対だめ。気が散ってしまう。かといって、教材を広げて勉強に没頭している学生もだめ。切羽詰まった空気に引っ張られて、作業が楽しくできなくなる。
落ち着いた男女ペアの近くは良い。たまに耳を傾けると面白い。
じっくりと新聞を読んでいるおじいちゃんの近くは大当たり。おじいちゃん同士の2人組だったら尚良し。癒し効果抜群。わざわざ家の外に出た甲斐がある。
※しかし、店内の椅子にいくつか種類がある場合は、これらの条件を差し置いてでもなるべく座り心地の良い椅子を狙いたい、、、。
次に、チェーンのカフェを利用する際気をつけているのは会計の速さだ。
私はレジで会計をさっと済ますことに命をかけていると言っても過言ではない。
これは自分の後ろに並んでいる客を待たせたくない気持ちがあるからだ。
そもそも私は人からの圧に敏感で、例えば人と一緒に歩くだけでも少し緊張する。自分の靴紐がもし取れてしまったら、それを結ぶため立ち止まることにすら、罪悪感を感じてしまう。だから基本、人と行動を共にするのが苦手なのだ。一人なら人からの圧を感じずに好きな時に立ち止まれるし、急いだりもできる。
レジで並んで注文する時は自分の前に1〜2人並んでいるのがちょうどいい。他の人の会計を待っている間に、メニューに目を通し狙いを定め、自分のターンが来た時に1秒も迷わずに注文できるからだ。
チェーンのカフェは、メニューが豊富でサイズ展開の幅も広い。優柔不断な私は、ドリンク一杯頼むのにも一苦労だ。
だから、私はドリンクを頼む時は基本二択と決めている。他に食べ物を頼む時はコーヒー、ドリンク単体の際はカフェラテだ。サイズはSでホットのものを頼む。
万が一、冷たいものが飲みたくなっても、真夏でない限りは我慢する。
経験上、途中で寒くなり後悔するし、ホットを頼んでも作業に没頭しているうちに気がつけば冷めている。どうしても冷たいものが飲みたい時は、水を飲めばいい。
容器は紙カップに入れてもらう。
これは、中身が溢れないように蓋があることと、店を出た後も残りを歩きながら飲めるからだ。(作業が捗るほど、ドリンクは減らない)
コーヒーはケーキを頼むときはブラック、それ以外はスティックシュガーを1/3くらい入れる。ミルクは入れない。
とまあ、チェーンのカフェではこのようなチマチマとした自分なりのルールに従って行動している。
この日も、仕事前にチェーンカフェに作業しに足を運んだ。
後から、隣の二人がけのテーブルにOLらしき二人が座ってきた。彼女たちは同じようなメガネを掛け同じ髪の長さで同じく一本結びに髪を結い、同じようなゆったりとした口調でたまに世間話をしながら、同じ速度でそれぞれの皿に盛られた同じタラコパスタをフォークに巻き付けている。トレーにくしゃくしゃになった割り引き券の片割れが置かれているのも同じだった。財布の奥底からレシートやらなんやらの中から取り出したのだろうか。レジで後ろの人を待たせたに違いない……。
とにかく、彼女たちはまるで一心同体のようだ。きっと一緒にいてもストレスフリーな関係性なのだろう。少し羨ましく思った。しかし、居心地の良い関係ほど、ルールはつきもののはず。この二人の世界にも暗黙のルールがあるのだろう。たとえば、恋愛話は持ち込まない、とか、お互いのファッションには口を出さない、とか。今まで他人のルールなんて気にしたことなかったけれど、そんなことがほんの少し気になった。作業が一段落したら、彼女たちの食べていたタラコパスタを頼んでみようか。だけど、きっといつものトマトパスタにしないと私はきっと後悔するだろうな。やっぱり自分と仲良くするために私は私のルールに従おう。