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「おつかれ、今日の私。」Season2

東京生まれの日本人。
現在、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」のMCを務める人気コラムニストで作詞家、プロデューサーのジェーン・スーが、毎日を過ごす女性たちに向けて書き下ろすエッセイです。

おつかれ、今日の私。 vol.16

好意を示すことと、好かれようとすることは同じではない。自分の気持ちを相手に伝えることと、相手の気持ちをコントロールしようとすることは真逆だもの。「あなたのこういうところが好きです」と伝えるのと、褒めたら相手が喜びそうなところを褒めちぎるのは、まったく異なる行為だ。

わかっちゃいるけど、好きな相手には好かれたいのが人の心。なんだったら、そんなに好きでもない人にも好かれたほうがいいのではと思ってしまうもの。だから相手が好みそうな言葉や態度を選んでしまう。たとえ、それが自分らしくなかったとしても。

恋愛の話だと思った? いいえ、これは友人の転職活動の話。

希望の会社がハッキリ決まっていて、そこに就職することがなによりの優先条件ならば、面接では相手に好かれるようなことを言ったほうが功を奏する。もちろん、好意を示しつつ。でも、ちょっと待って。友人は現職に不満があり、その解消のために転職したいのだ。ならば、見知らぬ企業に好かれようとしても、のちのち不幸になるのでは?

友人は他者の期待を察知するのがとても上手な人だ。どう振舞えば仕事がうまく回るか、恐ろしいほどよく見えている。特筆すべき能力ながら、会社というのは恐ろしいところで、自分を引っ込めてでも他人の期待に応えようとする人のところへ無理難題が集まってくるようにできている。まるで中州に落ち葉が溜まるかの如く。

「彼女は善人過ぎる」と人は言う。確かに、性善説が服を着て歩いているようなところがある。自分が頑張ればなんとかなる時は、必ず頑張ってしまう癖もある。多少は矯正したほうが働きやすいだろうな。でも、他人の期待に応えたいという気持ちや、人一倍頑張れる性質って、本来ならありがたがられて然るべきものだ。処世のために失くしてしまうのは、あまりにも惜しい。

彼女が本腰を入れて転職活動をしたら、採用する企業は少なからずあるはずだ。説得力のある実績もあるし、なにより面接官が欲しい言葉をポンポン口から吐けるだろうし。ここで忘れてはならないことは、まだ無職にはなっていない彼女に必要なのは採用通知ではなく、気持ちよく働ける会社だってこと。ちょっと違うな、という不安が霧のように立ち込めたところに好かれようとして無理をしても、結局は現職と同じ悩みを抱えることになる。まだ仕事があるなら、お互いの気持ちを一致させるためにこちらが折れる必要はないのだ。たとえ嚙み合わなくとも、自分が良いと思ったところだけを伝えて、そこで堪える胆力が求められる。なかなか難しいことだけれど、好かれようとして裏目に出る場面って意外に多い。

それこそ恋愛でも、「好意は示すが好かれようとはしない」スタンスって、天賦の才能でもない限りとても難しい。そういうことが出来る人は、たいてい周囲から無条件に好かれるのだから、平身低頭の不器用組にとってはたまったもんじゃない。仕事でも恋愛でも、自分が相手の眼鏡に適うことを証明し続けなければ存在価値なんかないと、無意識に思ってしまう不器用組のみなさん、お元気ですか。

もう若くはない友人にも私にも、自分の価値を証明するような働き方は減らさなければいけない時期が来ている。さて、私はどこから手を付けようか。


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ライター紹介

ジェーン・スー
コラムニスト/ラジオパーソナリティ/作詞家
東京生まれ、東京育ちの日本人。
現在、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」(月〜木11:00〜)のパーソナリティを担当。
毎日新聞、婦人公論、AERAなどで数多くの連載を持つ。
2013年に発売された初の書籍『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』(ポプラ社)は発売されると同時にたちまちベストセラーとなり、La La TVにてドラマ化された。
2014年に発売された2作目の著書『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』は、第31回講談社エッセイ賞を受賞。

その他の著書に『女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。』(文藝春秋)、『今夜もカネで解決だ』(朝日新聞出版)、『生きるとか死ぬとか父親とか』(新潮社)、『私がオバさんになったよ』(幻冬舎)、脳科学者・中野信子氏との共著『女に生まれてモヤってる!』(小学館)がある

11月6日発売
最新著書『女のお悩み動物園』(小学館)
【特設サイト】https://oggi.jp/6333649
【twitter】:@janesu112
Ayumi Nishimura
イラスト
大学在学中よりイラストレーターとしての活動を開始。
2016年〜2018年にはニューヨークに在住。
帰国後も現地での経験を作風に取り入れ、活動を続けている。
【official】ayuminishimura.com/
【Instagram】:_a_y_u_m_1_/
【Twitter】_A_Y_U_M_1_
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